大学駅伝スカウト、持ちタイムだけで測れない高校生の素質 箱根シード校・法大の場合は「攻め」「目的と意図」
レースで求めるのは「目的と意図を持った参加」
坪田監督は、何でもかんでも無鉄砲に前に出ていけばいいということではないという。レースでは常に目的を持ち、そのためにどんな走りをするのか考えて走ることが大事で、何も考えずにただ前に出ていくことを繰り返しては成長は望めないという。 ――レースでは、どういうところに視点を置いて見ていますか。 「最後、負けても気持ちが入ったレースを見せてくれる選手は好きです。スピードがあっても無謀に前に出て、なんでそんなことをするんだろうという選手っているじゃないですか。私は、選手に『目的と意図を持ってレースに参加しなさい』と言っていますが、それが見えない選手はあまり好きじゃないですね」 ――大学のブランドは、スカウティングに影響しますか。 「ブランドがひとつ優位になるのは、間違いなくあると思います。強くて、いい大学が理想ですよ。ただ、私はスカウティングの際、最後に必ず話をすることがあります」 ――どんな話をされるのですか。 「高校生には、『うちは自分で考え、しっかりと自分の軸を持ってやらないと厳しいよ。練習についてもABCDに分かれているわけではないので、BからAへとかシステマティック上に行くやり方を選ぶのならうちじゃない。自分で考えて、練習を組み立てていくのは最初苦労するけど、それでもやってみたいと思うのであれば、うちに来て欲しい』と最後に言います。その結果、高校の先生に言って断ってくる子と興味がありますという子のふたつに明確に分かれます」 ――今は、SNSで高校生同士が情報を交換し合い、進学先を考えるというのも聞いています。SNSはスカウティングにおいて影響していると思いますか。 「そんなに影響はないと思います。ただ、流れみたいなものは気にしているようですね。よく面談すると、『どういう選手が入るんですか』って聞かれます。それを聞かれると、私はすごく違和感を覚えます。強い選手が入るからといって強くなれるわけではないし、やるのは自分でしょってことなんですけど、人のことが気になるようですね。スーパースターが入ってもチームとして上がってこないところがあるので、そこは『あまり気にしない方がいいよ』と高校生に伝えます」 ――そこまで明確に話をするのには理由があるのですか。 「やっぱり大学4年間を有意義に過ごしてほしいですし、陸上をやり切った、うちに来て良かったと思って卒業してほしいからです。法政大というブランドはあるのかもしれないですけど、そこだけに魅かれて来てもやり方や環境が合わないとその子の幸せにはならないですからね」 (第4回へ続く) ■坪田 智夫 / Tomoo Tsubota 1977年6月16日生まれ。兵庫県出身。神戸甲北高(兵庫)を経て、法大では76回(2000年)箱根駅伝で2区区間賞など活躍。卒業後は実業団の強豪・コニカミノルタで2002年全日本実業団ハーフマラソン優勝、日本選手権1万m優勝。同年の釜山アジア大会1万m7位、2003年のパリ世界陸上1万m18位など国際舞台でも活躍した。ニューイヤー駅伝は計5度の区間賞。引退後の2012年4月から法大陸上部長距離コーチに就任。2013年4月から同駅伝監督に就任し、箱根駅伝は今回で10年連続出場となる。 佐藤 俊 1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)など大学駅伝をはじめとした陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。
佐藤 俊 / Shun Sato