新型ミニクーパーのEVとガソリン車、絶妙過ぎる「違うけれど同じデザイン」とは?【新型車デザイン探訪】
ついに日本デビューした新型ミニ・クーパー。発表会ではBEVのクーパーE/クーパーSEに焦点が当たっていたが、新型にはICEのクーパーC/クーパーSもある。デザインは同じ・・かと思ったら、実は違う。そこに隠された意図をデザイナーに聞いた。 【写真をみる】新型ミニクーパーのデザインを詳細解説!※本文中に画像が表示されない場合はこちらをクリック TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:千葉 匠/MINI
元祖に立ち返った『カリスマ的なシンプルさ』
新型ミニ・クーパーはBEVもICEも、そして内外装共に、非常にシンプルなデザインが印象的だ。ミニ・ブランドのデザインディレクター、オリバー・ハイルマー氏はその理由を次のように語る。 「5年ほど前に新世代ミニの開発を始めたとき、(元祖ミニ開発者の)アレック・イシゴニスに立ち返った。彼が生み出したものは破壊的だった。当時の市場にあったものなど気にとめることもなく、純粋に目指す目的に合わせてミニを作ったのだ」 「そして元祖ミニは多くのセレブリティを魅了し、イシゴニスが予期していなかったカリスマ的なオーラを放つようになった。これを新型に取り込みたい。『カリスマ的なシンプルさ』を目指そう。必要なものに焦点を絞り、不可欠なものだけを残す。それこそが本当に強いキャラクターを生み出すと考えた」 小さな例を挙げれば、先代のフロントコーナーにあったエアインテークが新型にはない。先代ではそこから入った風を前輪表面に流す「エアカーテン」と呼ばれる技術を採用し、空力性能を高めたはずだったが・・。 「空力研究を進めて、それはもう必要ないとわかった。技術的・視覚的に必要であれば残すけれど、そのエアインテークは必要ないので取り去った。シンプル化にとても役立ったと思う」とハイルマー氏は説明してくれた。
シンプルにするのは「シンプル」ではない
クルマのカタチは三次曲面で包まれている。テスラのサイバートラックのように平面構成のフォルムに割り切れば話は別だが、常識あるデザイナーはそんなことはしない。だから例えば、三次曲面と三次曲面が交わるところに現れるラインをどう美しく通すかに悩んだりする。広い曲面を折れ線で分割すると解決できることも多いが、線の要素が増えてしまう。 シンプルなカタチを実現するための作業は、けっしてシンプルではない。それをハイルマー氏に問い掛けると、「その通りだ。要素を減らすほど、すべての小さなサーフェスにより注意を注がなくてはいけない」。 「例えば」と彼が指差したのは、BEV版のヘッドランプの上あたり。「クレイモデルを使ってデザインを開発していくとき、このエリアに多くの注意を払った。シンプル化のためにヘッドランプの追加のリングを取り去ったので、ここには三方向からの面の流れが交錯する。それをパーフェクトに、正確にやらねばならなかったからね」 先代までのミニは深絞り形状のボンネットを丸く切り欠き、そこにボディ付けのヘッドランプを埋め込んだデザイン。それゆえボンネットの切り欠きにリング状のメッキモールを付けていた。新型のICE版は先代と同じ構成なので黒いリングが存在するが、BEV版にはそれがない。ボンネットを丸く切り欠くのをやめたからだ。その結果、ボンネット、フェンダー、バンパーという三方向からの面の流れを、ヘッドランプでダイレクトに受け止めなくてはいけなくなった。 新型のICE版を見ると、黒いリングのすぐ外側に折れ線を回している。この折れ線で三方向からの面の流れを断ち切ることで、リングの外周形状をきれいに整えているのだ。しかしリングがないBEV版はそれができない。リングを廃止した結果、面の流れをより慎重にコントロールしなければならなかった。シンプル化しながら完成度を高めるのは、手間がかかる作業なのだ。