伊集院静が考える<仕事の本質>。「働くとは社会や人々の糧になること。その糧とは金銭などでなく…」
2023年11月24日に作家の伊集院静さんが永眠されました。『機関車先生』『受け月』などの数々の名小説を残した作家でありながら、『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などの名曲を手掛け、作詞家としても活躍しました。今回は、伊集院さんの名言が多数収録された『風の中に立て ―伊集院静のことば― 大人の流儀名言集』から、ユーモアがありながらも人間を見つめる深い眼差しが秘められたエッセイを、一部紹介します。 【写真】伊集院静さん * * * * * * * ◆検索とは スマホの中には何があるのか? データがあるだけでしかない。 そのデータを或る種の答えと錯覚している人間が大半である。 検索は、押す作業と引っ張って行かれる作業をしているだけのことで、到達点と思われる所にあるのは答えではなく、状況もしくは今のところ、これですと伝えているだけだ。 これを若者、子供がやると、それが正解などと思ってしまう。無知とはたいしたものなのである。
◆人生の鍵が隠れている場所 企業、会社でもパソコンは必需品である。 一人のデスクに一台パソコンがあり、それにむかってキーを打つことが大半のビジネスマンは仕事と錯覚している。 そんなもん仕事であるわけがない。 なぜならキーを打って、何かに引っ張られているだけだからである。 仕事にとって一番大切な情熱、誇り、個性がパソコンの中に隠れているはずがない。 世界を変える素晴らしいアイディア、そして誤りを発見し修正できる能力はすべて、人間の本能に近い部分への刺激から誕生する。 朝から晩までパソコンの中にある情報、状況に身を置くことは間違いなのである。 そんなものはコンピューターにさせておけばいいのである。 では肝心は何か? 五感で目の前の世界を読み、判断し、何をすべきかを決定していくことだ。 「五感ですか?」 そうです。 文字を自分の手で書き、書きながら思考をくり返して行き、壁にぶつかればそこでまた考え続ける。 誰も引っ張ってくれない行動の中にだけ、個性、次代をより良くする道への扉、鍵が隠れているのである。
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