ABCマート摘発で高まる「ブラック企業」レッテルの経営リスク
東京労働局は7月2日、靴チェーン大手の「ABCマート」の店舗で違法な長時間労働があったとして、運営する「エービーシー・マート」及び同社の役員と従業員2人を書類送検した。国や労働局による積極的な違法労働の摘発は、今後の企業経営にどのような影響を与えるのか。また、労働者の健康をむしばむ長時間労働の削減につながるのだろうか。東京都内などで数多くの企業の法務に携わり、企業のコンプライアンス問題に詳しい重松英弁護士に話を聞いた。
違法労働摘発の「潮流が変わりつつある」
今回の事件は今年4月に設置された国の「過重労働撲滅特別対策班(通称・かとく)」による初の摘発事例となったことが大きく報じられている。しかし重松弁護士は「そこは本質的な点ではない」とし、むしろ国による違法労働への取り組みは、昨年の秋から強化され続けてきたと指摘する。 「政府は昨年9月、塩崎恭久厚生労働大臣を本部長とする長時間労働削減推進本部を設置しました。5月には1年間に3つ以上の事業所で勧告を受けても是正しない『ブラック企業』の企業名を公表すると発表しています。今回のエービーシー・マートの摘発も、積極的に違法労働を取り締まろうとする国の一連の取り組みの流れの中にあるといえるでしょう」 重松弁護士は今回の摘発を、「違法長時間労働に対する『潮流』が変わりつつあるということを、やっと世間に知らしめた機会になった」と位置付ける。
「ブラック企業」のレッテルを貼られるリスク
今回の摘発は、他の企業の経営に影響を与えるものとなるのか。 重松弁護士は、「今回の摘発でエービーシー・マート側に最終的にどのような処分が科されるのかは、まだ書類送検の段階なので分からない」とした上で、「それよりも、摘発されたことによる『社会的影響』の方が大きい」と話す。 「今回の摘発のように、報道で大きく取り上げられ、SNSなどのインターネット上で話題が広まると、摘発された企業は『ブラック企業』であるというレッテルを貼られるリスクがあります。一度ブラック企業とレッテルを貼られてしまうと、一般消費者からはそっぽを向かれかねません。これは、飲食・小売業にとって厳しいことです」