電動キックボードが嫌われる「本当の理由」とは? 大学教授が解説、規制緩和がもたらす都市交通の「多重的なジレンマ」とは
管理化されるモビリティ
シェアサービスとしての電動キックボードには、自転車よりもマナーやルールの面で有利な点がある。 自転車は人間の身体だけで移動範囲を広げることができるが、その分自分や他人を傷つけるリスクもともなう。そのため、安全な乗り方を学ぶだけでなく、法律で定められたパーツの購入や整備、自らの防犯登録や保険加入が求められる。しかし、自転車の多くは個人で購入・所有されているため、乗り方の習得や車両の管理は利用者に委ねられがちだ。この結果、整備不良や基準未満、交通違反、さまざまな迷惑行為が長年の問題となってきた。 一方、シェア事業では、車両の利用や管理を事業者と情報技術によって容易にコントロールできる。シェアサービスとして提供される電動キックボードは、所有と管理が事業者に委ねられており、その利用料金も事業者に支払う形になっている。 利用方法はモバイルメディアのアプリを通じて管理される。例えば、Luupのアプリでは、個人情報や支払い方法を登録した後、ポートの車両をレンタルできる。ポートはモバイルメディアのマップ上に表示されるため、出発点と目的地を照らし合わせて貸し出しと返却のポートを選ぶことが可能だ。また、交通ルールについてもアプリで学ぶ必要がある。 このように、モバイルメディアを活用してルールやマナーを伝え、違反点数によってアカウントを停止することもできる。さらに、ナビ機能で安全なルートを提案することも可能だ。保険加入や車両整備も事業者に任せることができる。つまり、移動能力の拡張が抱えるリスクを情報空間で 「管理・監視」 しようとしているといえる。
利益と公共性の綱渡り
ただし、それが民間事業である限り――逆にいえばなんらかの形での公営化や高度な支援・補助が無い限り――その利用や管理のコストは事業の利益で賄える必要がある。都市空間に広がる車両を常に良好な状態に保つことは容易ではない。 また、他の交通手段と同様に、ルールやマナーを学ぶ問題は解消されない。特に歩行者や自動車運転者にとって、電動キックボードは歩道でも車道でも嫌われがちであり、この問題はこれまでの自転車利用から引き継がれている。電動キックボードはさらに厳しい批判にさらされるだろう。 建物の隙間に設けられたポートの占有や利用権の管理は複雑で、交通手段の間に位置する電動キックボードは、多様な制度や空間、技術の中間領域を揺れ動くモビリティであるため、対立や摩擦、危険をもたらす構造的な理由がある。 このため、事業者は事業を続ける限り、さまざまなクレームに対応し、ポートや車両の緻密な管理、監視、整備、ルールやマナーの啓発に辛抱強く取り組まなければならない。「LUUPの安全・安心アクションプラン2024」は、その姿勢を示すものだろう。 このようなマイクロモビリティ事業には、火中の栗を拾うような勇気が求められる。その成否は、交通にともなう利益の確保と公共性の維持というジレンマに、どのように安定的に対応するかにかかっている。