電動キックボードが嫌われる「本当の理由」とは? 大学教授が解説、規制緩和がもたらす都市交通の「多重的なジレンマ」とは
自転車厳格化と逆行する規制緩和
このようなマイクロモビリティが新しいテクノロジーとして導入され、規制が緩和されてサービスが普及し、都市の経験や空間が変化していく様子は興味深い。しかし、同時期に自転車の扱いが厳しくなっていったことを考えると、少し不可解な部分もある。 例えば、自転車はこれまで基本的に車道を通行し、歩道は例外とされてきた。しかし、実際にはどちらの通行も見られた。2022年の法改正では、自転車関連事故の微増(件数自体は平成期から大幅減)を背景に、車道通行の原則がさらに強調されるようになった。また、近年では自転車専用道路や自転車ナビマーク、ナビラインも増えてきた。これにより、歩道と車道の間でゆらぎながら通行していた自転車をできるだけ車道へ移行させるために、制度の厳格化や空間の整備が進んでいる。 こう考えると、あいまいに利用されていた歩道と車道の 「中間領域」 に厳しい規定を設けようとする流れのなかに、新しいテクノロジーである電動キックボードが突然登場したことになる。自転車が歩道から車道へ移行する一方で、電動キックボードは車道から歩道へ近づいている状況で、両者が交錯しているといえるだろう。 両者とも、事業者や行政、各種団体を通じて安全性を高める努力を重ねており、その点では共通の方向性がある。しかし、自転車のリスクが問題視され、ルールが厳しくなるなかで、電動キックボードの規制が緩くなることには理解しがたい部分もある。
都市で交錯する新旧モビリティ
電動化以前のキックボードは、「キックスケーター」とも呼ばれ、日本では子ども用の遊具としてのイメージが強かった。実際、経済産業省のグレーゾーン解消制度によれば、キックスケーターは道路交通法上の軽車両に該当せず、利用者は 「歩行者」 として扱われている。つまり、ローラースケートやスケートボードと同じく、実質的には遊具といえる。 ただし、これらの遊具は道路交通法76条4項3号によって「交通のひんぱんな道路」での使用が禁止されている。取り締まりにはあいまいな部分があるが、特にスケートボードは公共空間で禁止看板が多く見られる「迷惑行為」として知られている。 1990年代以降、ストリート系のスケートボードが都市空間に広がるとともに、「スケボー禁止」の看板も増えていった(田中研之輔、2016年『都市に刻む軌跡』新曜社。60)。2010年前後になると、スケートボードはストリートから「専用パーク」という施設に移行していった。一方、電動キックボードはストリートに広がっていくことになった。 すでに、電動キックボードの危険性に対する批判は多く、海外での規制強化も影響している。それに加えて、 「バイクと自転車」 「歩道と車道」 の間をゆらぎながら――増加の一途に――ひた走っていくことに対する不安でもあるようにも見える。