【厩舎のカタチ】〝2つの名門初〟の新人トレーナー ~河嶋宏樹調教師~
河嶋流を望む師匠からの粋なエール
BTC、そしてノースヒルズがホースマンの礎を築いた場所なら、調教助手として約14年間在籍した中竹和也厩舎は、厩舎人として深みを与えてくれた場所である。 こちらも「貴重な経験ばかり」。そのひとつは、すぐにやってきた。初めてのレースは、のちのNHKマイルC覇者ジョーカプチーノとともに。武豊騎手を鞍上に迎え、単勝オッズは1・5倍。「調教もすごい動き。でも負けるんだ(2着)」と思わされた相棒を、2戦目まで担当したが未勝利。勝負の厳しさを知った。 河嶋助手と最も長い時間を過ごしたのが、ダコール。当歳時に首を骨折し競走馬になることさえ危ぶまれながら、牧場で懸命のケアが施され、中竹厩舎に入厩。2歳秋から9歳まで走り続けた〝無事之名馬〟である。通算7勝、重賞勝ちは2015年のGⅢ新潟大賞典の1つだが、走り続けること、実に48戦。「無事に走り、帰って来てくれることが何より大切だと学びました」と、6年半の歩みを懐かしむ。 担当馬を有する持ち乗り調教助手としてキャリアを重ね、調教師試験の一次合格後は攻め専(調教専門)の調教助手に。その過程で若き日のアカイイトを手放すことになったが、同馬がエリザベス女王杯を制し湧いてきたのは、悔しさではなくうれしさだけ。気持ちはすでに、前に進んでいた。 馬への向き合い方や技術も学びながら、6度目の受験で合格。〝中竹厩舎出身初の調教師〟が誕生した。「かわいいと言うと失礼だけど(笑い)、うれしいよ。入った頃からあのまんま。何にも変わらない」と、中竹和也調教師は笑みを浮かべる。その柔和な表情と言葉に触れ、こちらもどこかほほえましくなってくる。 その中竹厩舎と河嶋厩舎は先月末、道路を隔てて〝お向かいさん〟になった。今年3月開業の調教師を対象とした引っ越しで、他の4名が新築厩舎を希望する中、唯一既存の厩舎だったその地を、河嶋師は希望したのだ。 早速、師匠も厩舎を訪れた。馬が寝違えた時に起き上がりやすいよう脚がかりを良くしたり、乾草を食べさせる区域をゴムで囲い、馬が脚を突っ込んでも安全を確保できるようにしたり。馬房内に施された工夫に、「〝なるほどな〟と思うことも多い」(中竹師)のだそう。調教は中竹厩舎の時間帯、メニューをベースにしつつ、すでに変化も加えている。「ヒロキイズムを出していけばいい」とエールを送るが、決して〝切磋琢磨〟ではない。 「俺に対する恩返しは、〝成績を追い抜くこと〟だから、抜かしてくれなきゃダメ。ヒロキが調教師を引退する時には、成績から何もかも抜いてほしい。そうなれば、一番うれしいよ」