独自の睡眠スタイルを進化させてきた。動物たちの眠りの秘密(専門家が監修)
人にとって重要な睡眠だが、それは他の動物も然り。彼らは自らが生きる環境や生態に合わせて、独自の睡眠スタイルを進化させてきた。そこで、イルカの眠りをテーマに動物の睡眠を研究する千葉商科大学の関口雄祐教授に、動物の睡眠について教えてもらった。[監修/関口雄祐(千葉商科大学教授)] [画像]眠りにつく動物たち
環境と生態に応じて、動物は眠りを進化させた
イルカの眠りをテーマに動物の睡眠を研究する千葉商科大学の関口雄祐教授(動物行動学)。イルカを選んだ理由は? 「イルカは哺乳類。魚類のようなえら呼吸ではなく、ヒトのような肺呼吸をします。海獣(海に棲む哺乳類)の中でも、アシカやアザラシは陸に上がって呼吸できますが、イルカはずっと海で泳ぎながら暮らしているため、ときおり海面上に顔を出して呼吸する必要がある。そんな彼らがどうやって眠っているかに興味を持ち、研究を始めたのです」 眠りはもっぱら脳を休めるためのもの。哺乳類の脳の構造はヒトを含め大きく変わらないが、イルカはヒトとは異なる半球睡眠をする。 「イルカの脳にも右脳と左脳がある。脳の左右を交互に眠らせるのが半球睡眠。おかげで、起きている方の脳を使って溺れずに泳ぎながら、ときおり海面上で呼吸できるのです。でも、水族館で詳しく観察してみると、泳がずにプカプカ浮きながら眠るイルカもいる。この状況なら半球睡眠でなくてもよさそうですが、脳波を測るとそれでもほぼ99%は半球睡眠のようです」 哺乳類に限らず、爬虫類や魚類、イカやタコなどの軟体類、カニなどの甲殻類にも眠りがあり、最近では脳がないクラゲにすら眠りがあるとわかった。これらの生き物たちもイルカと同じように、自らが生きる環境や生態に合わせて、独自の睡眠スタイルを進化させてきた。 「たとえば、栄養価の低い草が主食の牛はつねに食べ続けないと生きられない。寝る暇も惜しいので、胃に入った食べ物を何度か口に戻して嚙み直す反芻を行いながら寝る術を身につけています。あるいは、1か月以上も飛び続ける海鳥の一種・グンカンドリの仲間は、羽ばたかずにグライダーのように滑空している間、数分間の短い睡眠を頻繁に取っているようです」 動物特有の眠りに人間が影響を与えることもある(記事下参照)。 ネコ科は基本的にハンターなので、獲物を得るチャンスに備えて普段は休息モードで体力を温存している。ペットとして室内で飼われている猫が年中寝ているのはその名残だが、加えて自ら探さなくても餌がもらえるうえ、快適で天敵に襲われる心配もゼロだからだろう。 「同様の理由により、動物園で飼育されているキリンやゾウも、野生状態より長く寝る傾向があります。動作がゆっくりで怠けているようにも見えるナマケモノの睡眠時間は野生では1日9~10時間くらいですが、動物園に来ると睡眠時間が延びて16時間にも及び、本物の“怠け者”になります(笑)」