漫画村の元管理者は「支払うつもりはありません」と開き直り宣言 財産がないという理由で賠償金の不払いは通用するのか、弁護士の見解
今年4月、海賊版サイト「漫画村」元管理者に大手出版社3社が賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所は、17億円余りの支払いを命じた。著作物の権利侵害をめぐる裁判の賠償額としては過去最高とみられるが、元管理者から巨額の賠償金を回収することはできるのか。読者から寄せられた質問に弁護士の竹下正己氏が解説する。 【写真】「漫画村」に無断掲載され、約19億円の損害賠償の対象となった漫画作品の数々
【質問】 小学館、集英社、KADOKAWAが出版権を侵害されたとして漫画村の元管理者を訴えた裁判。その結果は元管理者に約17億円の賠償金支払いが命じられたのですが、驚いたのは彼の「支払うつもりはありません。金もないし」という開き直りの態度。この人は、このまま払わず、逃げ切れるのでしょうか。 【回答】 巨額賠償金の支払いを命じられた人物は、すでに『著作権法』違反で刑事処分を受けています。すなわち、刑事的な責任を取らされているわけです。今回の判決は、彼の海賊版により、大損害を被った出版社への賠償という民事的な責任が命じられたものです。判決が確定すれば、出版社は賠償金回収のため、強制執行ができます。 具体的には、財産の競売や債権の差押えなどの手続きです。しかし、それも財産があればの話で、何もない人からの回収は不可能です。それなら、次は賠償金を支払わないことで処罰できるかというと、単なる金銭債務の不払いで刑事処分を受けることはありません。
刑事事件とは、刑罰をもって処断するのが必要な反社会的な行為である犯罪を取り締まり、処罰し、また、処罰されることを警告して犯罪を予防し、犯人を矯正する手続きです。単に、お金を支払えないのを社会悪だとはいえません。 他に処罰しても、支払えない人に取り立てのため、タコ部屋に閉じ込めて強制的に労働させるようなことをすれば、奴隷労働であり、憲法違反となります。強制労働を禁止した『労働基準法』違反により、10年以下の懲役などで処罰されます。つまり、彼に財産がなければ、賠償金の回収は不可能です。 では、この先、どうなるかですが、裁判所で破産手続をすれば、通常は免責を得られますが、悪意で加えた不法行為による賠償金は、免責されません。彼に、出版社に損害を与える意図があったと認められると免責はなく、生涯負債を背負い続けることになるのです。 なお、借金を踏み倒すこと自体が刑事罰にならないとしても、例えば、最初から返す意思がないようだと、詐欺になります。なんにせよ、法律ではこのような場合、“なぜ、お金を支払う責任が発生したか”が最大の問題になります。 【プロフィール】 竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。 ※週刊ポスト2024年6月28日・7月5日号