伊豆諸島沖で墜落「海自ヘリ」に何が…「高度かつ複雑な訓練中だった」元操縦士が語る有事に備えた“知られざる”活動
太平洋上の伊豆諸島鳥島の東約280キロで先月20日夜半前、海上自衛隊の哨戒(しょうかい)ヘリコプ ター2機が墜落した事故。防衛省は5月2日、回収したフライトレコーダーの解析から、墜落の原因は「衝突」によるものだったと発表した。機体の主要部分と搭乗していた8人のうち7人は発見されておらず、海自は海洋観測艦「しょうなん」で現場海域深海の捜索を続けている。 事故時に行っていたとみられる訓練の模様 日本の平和を陰で支える “見えない”訓練で何が行われていたのか。事故を防ぐことはできなかったのか。
機長ら7人の隊員、今も発見されず
海中を忍び寄る潜水艦に上空から対抗する。その任務のための訓練中、漆黒の海上で2機のヘリコプターがレーダーから消えた。 2機は、ともに海上自衛隊第22航空群(大村航空基地=長崎県大村市)に所属するSH60Kヘリ16号機と同43号機。それぞれ機長以下4人ずつ搭乗。そのうち、16号機の副操縦士、西畑友貴2等海尉は事故から間もなく現場海域で収容され死亡が確認された。16号機の機長(3等海佐)、航空士(3等海曹、海士長)と43号機の機長(3等海佐)、副操縦士(3等海尉)、航空士(海曹長、2等海曹)の残る7人の隊員は、発見されていない。 海自は事故直後、総司令部の海上幕僚監部(東京・市ヶ谷)に事故調査委員会を設置し、原因究明に全力を挙げている。
事故が起きた訓練は「潜水艦を取り囲むように追尾するもの」
海上自衛隊トップの酒井良海上幕僚長(海将)は、事故を受け「この度の事故は、夜間の環境下、高度な戦術判断、複雑な部隊運用を要する厳しい訓練を実施中に発生しました」と海自HPに談話を公表した。 潜水艦は装備品 (艦艇・航空機等)の中でも特に秘匿性が高い。ある潜水艦に乗艦取材する機会があったが、停泊中の艦でさえ、記事にする際は「5W1H」のうちのWHEN(いつ=日付)を割愛するよう求められた。 潜水艦に対抗するために事故機が行っていた「対潜戦訓練」について、海自でヘリコプター操縦士・航空部隊指揮官を務めた経験を持つ笹川平和財団上席フェローの小原凡司氏は次のように説明する。 「複数機(3機)による潜水艦の探知、識別、追尾、攻撃を訓練したと考えられます。その訓練の中には、ヘリコプターがホバリングしてソーナー・ドーム(音波による探知装置)を海中に吊下し(ディップ)潜水艦を捜索するアクティブ・ソーナー を用いた戦術も含まれていたと思います」 海上約15メートルにホバリングし、艦から反射される音波を探る。ソーナー探知によって潜水艦の位置が得られた後は、3機がそれぞれに飛行してディップの位置を変えながら、潜水艦を上空から取り囲むような形で追尾したと考えられるという。その3機のうち2機が、何らかの原因によって衝突した。 夜間訓練の難しさについて「夜間は視界が制限されるのが最大の問題です」としつつ、「通常であればレーダーを用いた僚機(自機と編隊を組む友軍機) のモニターや衝突防止灯、両舷灯(りょうげんとう) を目視する見張りも行われていたと思います」として、事故の要因について思い当たらないとする小原氏。