4年半ぶりの日中韓首脳会談では『未来志向』の経済協力で合意:米大統領選挙後の国際情勢を睨む面も
中国は11月の米国大統領選挙後も視野に
中国にとっては、経済分野で日韓との連携を強化すれば、貿易面などでの中国囲い込みを志向する米国と両国との関係にくさびを打ち込むこともできる、という計算があるのではないか。実際、首脳会談で中国の李強首相は、日韓首脳に対して、(米国が求める)保護主義や貿易規制を拒み、自由貿易を堅持するよう促した、と伝えられている。 さらに、11月の大統領選挙でトランプ前大統領が再選されれば、米国はより「米国第一主義」の傾向を強め、バイデン政権の下で強化された先進諸国が連携して中国・ロシアなどに対抗する現在の構図に変化が生じる可能性が高い。この点を見越して、中国は前もって日韓との関係改善に動いている面もあるのではないか。 そして、不動産不況などを受けて国内経済が悪化していることが、日韓との経済関係を強化して、自国経済の安定を図りたいという中国側の思惑を生じさせていることもあるだろう。 北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を本格化し、2023年11月には、軍事偵察衛星を打ち上げた。韓国は中国に働きかけ、核・ミサイル開発の自制を促すよう求めたい考えだ。ただし、この日中韓首脳会談は従来、安全保障の問題には深く踏み込まない傾向があり、北朝鮮問題も大きな議題とならなかったのではないか。また、日韓は中国の海洋進出への懸念を表明し、中国は台湾問題への関与をけん制する可能性があるが、これも主要議題とはならなかったのではないか。
6つの重要議題と「未来志向」
日中韓首脳会談は、各国間で意見の隔たりが大きく合意点が見出しにくい安全保障問題よりも、より協調が容易な経済面での協力強化を強く打ち出した。 首脳会談では1)人的交流、2)科学技術、3)持続可能な開発、4)公衆衛生、5)経済協力・貿易、6)平和・安保――の6分野を重点議題に据えられた。さらに、こうした分野で、3か国の「未来志向」の協力が前面に打ち出された。「未来志向」という言葉は、2019年12月の前回の日中韓首脳会談でも使われたものだ。 特に重視されているのが、3か国間での投資促進だ。中国では、海外からの直接投資が急減している。中国国家外貨管理局によると、2023年の外国企業からの直接投資が前年比で8割減少した。米中間での対立など、地政学リスクの拡大と不動産不況による経済の悪化の影響から、中国では海外からの直接投資が大幅に減少し、それが経済のさらなる悪化をもたらしている。こうしたもと、中国は日韓からの投資拡大に期待しているだろう。 また、日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、2023年の日本から韓国への直接投資額は1兆4,500万ドルのマイナスとなった。これは、電機、機械、小売りなどの分野で、日本企業が韓国から撤退する大型の案件があったためだ。 首脳会談に合わせて、3か国の経済団体による「日中韓ビジネスサミット」も開かれる。互いに投資を呼びかけ、経済成長に結び付ける考えが示される。 2019年から交渉が中断している日中韓の自由貿易協定(FTA)について、「交渉を加速していくための議論を続ける」と共同声明に明記された。岸田首相も、「率直な意見交換を行っていきたい」と述べている。 しかし現実的には、このFTAには中国に対する貿易規制を進め、日本、韓国にも協力を求める米国が反対すると見られ、実現は難しいのではないか。