「禁煙外来に行ったら?」がヘビースモーカーに響かない理由 行動変容ステージモデルとは
「行動変容ステージモデル」とは、人が行動を変えるまでに通過するプロセスを説明したフレームワーク。1983年、米国の心理学者であるジェームズ・プロチェスカ氏とカルロ・ディクレメンテ氏によって考案された「多理論統合モデル」の中核概念の一つです。人が行動変容に至るまでには、「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の五つのステージを通ります。禁煙の研究から導き出されたフレームワークですが、汎用(はんよう)性の高さからヘルスケア・医療領域に限らず、ビジネスシーンでも活用されています。
「禁煙外来に行ってみたら?」 この一言がヘビースモーカーに響かない理由
誰にでも、現状維持は心地よいものです。「ダイエットしたいけれど、明日からでいいかな」「あの仕事にそろそろ着手しなければいけないけれど、明日でいいかな」と、面倒なことを先送りにする癖は誰にでもあります。行動を起こせば、健康になったり成長につながったり「よりよい」状態になることは分かっています。それでも、現状維持をやめられない。先延ばし癖は、人間の普遍的な所業と言えるでしょう。 「行動変容ステージモデル」によれば、行動変容には五つのステージがあります。一つ目は、無関心期。課題に気づかず、行動を変えようと思っていない時期です。二つ目は、関心期。課題には気づいているけれど、まだ行動には移していません。ただ、半年以内に行動を変えようと思っている状態です。三つ目は、準備期。変化したいと考えており、スモールステップでもすぐに始める準備ができている状態です。そして四つ目は、実行期。すでに行動に移しているが、習慣化には至っていない段階です。最後は、維持期。行動変容をし、持続させる自信のある状態です。 昨今は、健康経営の一環で、従業員の健康増進に取り組む企業が増えています。健康経営において、行動変容ステージモデルは有効です。例えば、従業員の禁煙を支援するとしたら、対象者が今どのフェーズにいるかによってアプローチが変わってきます。全く禁煙の必要性を感じていない「無関心期」であれば、「なぜ禁煙したほうがよいのか」を伝えるコミュニケーションになります。禁煙を試みているものの失敗している人は「準備期」と「実行期」をさまよっており、タバコの誘惑に打ち勝つための具体的なアドバイスが効果的です。 支援者として、誰かの行動変容を促すには、対象者がどのステージにいるかを正確に把握することが重要です。それぞれの段階には独自の特性と課題があり、その時々によって効果的なアプローチが異なるためです。「無関心期」にいる人に対して、禁煙外来やニコチンパッチのように具体的なアドバイスをしても、のれんに腕押し状態になってしまいます。 行動変更ステージモデルは、従業員の健康管理だけでなく、能力開発、理念浸透、カルチャー変革などさまざまなシーンに応用できます。ステージに合った働きかけをすることで、個人の行動変容、ひいては組織のパフォーマンス向上につながるでしょう。