部活顧問の性暴力で今も苦しみ 絶対服従の中で 日本にも必要な機関
西日本に暮らす40代の女性は、いまもソフトボール部の男性顧問に怒鳴られる悪夢にうなされる。 【写真】高校時代の部活顧問からの手紙。「あなたがおっしゃるように犯罪です」と性暴力を認めている 女性が通っていたのは中高一貫のカトリック系の私立名門女子高校。練習でミスをすれば、容赦なくビンタが飛んだ。絶対服従の世界だった。 高1の秋に、キャプテンになり、顧問が使う部屋に報告に行くようになった。「マッサージをしてくれ」と言われ、嫌だと言えず続けた。さらに「整体・マッサージ」を教えると言われ、互いにやりあう形になった。肩や腰を押し合うだけでなく、顧問の下腹部を押さえさせられたり、女性の恥骨を押されたりもした。 毎日泣きながら、帰宅した。しかし、だれにも言えなかった。「レギュラーやキャプテンを外されないため、という気持ちがあった」 相談すれば、みなが頑張っている部活動が維持できなくなるかも――そんな思いもあった。 高2の夏合宿の夜。顧問の部屋に呼び出された。「スポーツをする高校生女子の体・筋肉を知る必要がある」。顧問は肩や腕などを押してきた。「おっぱいも触るぞ。イヤなら言え」。恐怖で体が動かなかった。部活動引退まで「マッサージ」は続いた。 大学卒業後、「なぜ断れなかったのか」と自責の念に苦しんだ。大量に酒を飲み、うつ病を発症。「消えたい」という思いにさいなまれた。 高校卒業から10年近くして、信頼する知人に相談し、高校に被害を訴えた。1年近くやりとりした結果、顧問は書面で謝罪とともに「私の行為は、あなたがおっしゃるように犯罪です」などと書いてきた。 その後、女性は結婚、母となった。区切りをつけたつもりだったが、数年前からは再び眠れない日が多くなった。うつ病と診断され、仕事、子育てをしながら精神科に通う。 「性被害を受けると、死ぬまで苦しい。どれだけ謝られても心は元には戻らない」(編集委員・大久保真紀) ■識者「調査・処分、研修行う機関設置を」 ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表 土井香苗さんの話 性暴力の加害者は、最初は軽い行為から始め、子どもを手なずけながらエスカレートさせていきます。子どもには、こういった場面に出くわしたら、その場を避けて、信頼できる大人に相談することを伝えましょう。相談を受けた大人は子どもの言葉を否定せず「味方である」というメッセージを伝え、話を聞くことが大切です。性暴力はどこでも起きる可能性があります。地震に対する考えと同じように、起きるかもしれないから備えるのです。 米国では、17年に独立機関である「米国セーフスポーツセンター」が立ち上がりました。被害者は、ここに相談すれば、調査や加害者の処分をしてもらえます。処分結果はデータベースとして公表されます。センターは、ルールやガイドラインの制定、研修・教育も幅広くやっています。日本にもこうした機関の設置が急がれます。(聞き手・藤田絢子) 【性暴力に関する相談窓口】 ■性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(内閣府男女共同参画局) 電話:#8891 ※携帯、固定電話から利用可能 ■スポーツにおける暴力行為等相談窓口(日本スポーツ協会) 電話:03・6910・5827 ※毎週火、木曜の午後1~5時受け付け
朝日新聞社