スイス高級時計市場、世界的な低迷脱せず 買い手市場はいつまで続くのか?
スイス高級時計業界のひずみが浮き彫りに
米ブルームバーグ通信が9月初め、一部の時計企業や部品メーカーが従業員を一時的に休業させ、永久的な人員削減をすることなく生産量を減らすことができるスイス政府の制度を利用していると報じたことで、業界のひずみが浮き彫りとなった。その一例として、高級時計ブランドのジラール・ペルゴとユリス・ナルダンを傘下に持つ時計メーカー、ソーウインドグループの幹部は、従業員の約15%を一時帰休させたと証言した。スイスの州政府は、休業中の労働者の給料の最大80%を負担しているという。 スイス時計産業雇用者協会は最近、スイスフラン高が海外での販売の障害になっているとして、時計産業を支援する措置を講じるよう政府に求めた。スイスフランはこの2年間で、対米ドルで13.75%上昇した。通貨高により、スイスの時計メーカーは他社と競争するために利ざやを下げるなどして対応している。 スイスの高級腕時計メーカー、ロレックスのジャンフレデリック・デュフール最高経営責任者(CEO)は先に、スイス紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)の取材で次のように述べていた。「すべてのメーカーが好調だった時期は終わりつつある。好調な時期には、製造が過剰になることが多い。今のように市場が弱まると時計販売店に圧力がかかり、値引きで対応するようになる」。新たな需要を呼び込むために小売段階で値引きをすると、スイスの時計メーカーの利益幅が圧迫されることになる。 小売業者もまた、流通市場での価格下落に悩まされている。高級時計メーカー上位10社から選ばれた60本の腕時計で構成される「ウォッチチャート総合市場指数」は、過去1年間で7.1%下落した。二次流通価格の低下が新品の時計販売店に直接的な影響を与えることはないが、購入者の感情に影響を与え、小売価格を下回る価格で高級時計を入手する選択肢を提供することにつながる。 新品と中古品の販売が低迷し、二次流通価格が低下する中、スイスの時計業界はいまだに新型コロナウイルス流行後の需要増と格闘している。アジアの需要回復や過剰生産の抑制、スイスフラン安によって、業界の低迷を食い止めることができるのは確実だ。それがなければ、高級時計の買い手市場は今後も続くだろう。
Garth Friesen