「親よりも豊かになれない」...5割以上が“中流以下の暮らし”と感じる日本の危機と、中流復活のヒント
「中流の暮らしができていない」が5割以上
「一億総中流社会」と言われた日本。正社員として働く、持ち家に住む、自家用車を持っている、年に一度以上は旅行に行ける……そうした「イメージする“中流の暮らし”をしているか」について5370人に尋ねた調査では、56%の人が「中流より下」と回答しました。このように、多くの人が“中流と思えなくなった社会”の実態を探ったのが、NHKスペシャル取材班による書籍『中流危機』です。 そもそも“中流”、すなわち中間層とはどのような層を指すのでしょうか。『中流危機』では、「中間層の定義はさまざまだが、複数の専門家は、日本の全世帯の所得分布の真ん中である中央値の前後、全体の約6割から7割にあたる層を所得中間層としている」と解説します。 2022年に内閣府が発表したデータからは、中間層の世帯所得の変化がわかります。1994年には505万円だった中央値が、2019年には374万円に。25年間で約130万円の大幅な減少が起こっていました。本書では「単身世帯や高齢世帯の増加など、世帯構成も変化しているため、単純比較はできないものの、この25年間で中間層は確実に貧しくなっている」と指摘します。 特に若い世代においては、“中流”になることに「諦めムード」であることもわかってきたといいます。NHKと労働政策研究・研修機構が行った、20歳~34歳の若い現役世代、1120人が回答を寄せたアンケート調査では、「『親よりも豊かになれるか』という設問に対して、34%の回答者が『豊かになれない』と回答した。その回答者に、『努力をすれば誰でも豊かになれるか』という設問を重ねて行ったところ、『努力しても豊かになれない』と答えたのは67%に上った」という結果に。
「親の生活水準には届かない」。中流は高嶺の花
「今は何とかやっていますし、これまでも、そんなに生活が悲惨な感じでもなかったけど、想像していた“中流”とはちょっと違っていた。旅行して、貯金もたくさんあって、早くローンが終わっていてとか……。“中流”の定義が、自分の中ではもうちょっと上のイメージだった」 本書で紹介している、正社員として30年以上働き続けてきた55歳(取材当時)の男性のこの言葉は、自分の暮らしが「中流より下」と回答した56%の人たちのリアルな胸の内なのでは、と感じます。 そのほかにも本書では、コロナ禍の影響で収入が激減した夫婦や、会社で給料アップができず副業や投資を始める若者たち、非正規雇用の派遣社員として働く40代の大卒男性などを取材。いずれも印象的なのは、「親の生活水準には届かない」「高望みはしていない」という思いでした。 NHKスペシャル取材班が、20~50代の現役世代100人への聞き取り調査を行う中でわかったのは、もはや中流の暮らしは高嶺の花――。そう感じる人々の多さです。本書では、現役世代を取り巻く社会の変容について、次のように述べています。 かつて日本企業は、新卒一括採用、年功賃金、終身雇用、福利厚生などの制度で、従業員の人生を、ときに退職後も含めて手厚く面倒をみてきた。“一億総中流社会”を支えてきた、いわば「企業依存型」ともいえる雇用システムだが、こうした制度を続ける余力のある企業は少なくなり、企業と従業員の関係性は大きな曲がり角をむかえている。――『中流危機』より