暗号資産とデジタル証券が激変、日銀注目「預金トークン」と「ブラックロック事例」
「預金トークンを媒介にしたST/SC」「ブラックロック事例」
ここまでST、SCそして預金トークンについての動向についてまとめた。ここで預金トークンを媒介にして俯瞰(ふかん)してみると以下のようにいえるのではないだろうか? SCと預金トークンに共通する点:決済手段の提供 STと預金トークンに共通する点:利息(金利)収入が得られる こういった点で見るとSCとSTは別モノではありつつ、預金トークンはその中間としていずれの属性をもっているともいえる。 言い方を変えるならSC、STは預金トークンという補助線を使うと同じカテゴリに属するパラメータが異なるものという見方もできるかもしれない(当然ながら準拠している法律・制度が異なるが、経済的な価値としてみるとこのような見方も可能であるという意味である)。 この点を理解をした上で筆者が注目している事例を見ていこう。それはグローバルでの資産運用大手であるブラックロック社が発行したSTであるBUIDLの事例である。 BUIDLの詳細はこちらの記事などを参照いただくのが良いが、注目すべきポイントは(1)資産運用大手のブラックロックがSTを発行した点、(2)米国債などを運用するブラックロック社のファンドを表象しており、1BUIDL=1米ドルの安定した価値提供を実現している点、(3)毎日配当が発生し、月次で投資家に分配を実施する点である。 特に1BUIDL=1米ドルという安定した価値を実現しつつ配当が得られるという点は、「STでありながらSCが体現しようとしている価値をも包含している」と言えるだろう。 また債券と預金という違いはあれども、預金トークンと類似しているという言い方もできるだろう。
セキュリティトークンとステーブルコインの類似性に注目
ST、SCの動向を中心に解説してきた。ST(特に債券系のST)、SCは預金トークンという補助線を引いて眺めると、経済的価値という観点では非常に類似しており、またトークンという形でブロックチェーン上に同じ並びで取り扱うことで、より類似性が際立ってくる、ということだろう。 もちろんSTの主力である不動産STは価値の安定性も金利・配当の動きもまったく別次元であり、また今後国内でも出てくる可能性のある、株式を発行する代わりに資金調達するような「エクイティ系のST」はこの限りではない。 一方で単純にSTの動向を見ていくにしても、「隣接領域であるSCを無視しての議論は意味がない」ということをご理解いただけたのではないだろうか。 今後もいろいろな工夫がされたSTやSCが発行されてくることが期待されるが、こういった目線をもって理解をしていくことが肝要ではないかと考える。 本稿に記載の見解は執筆者の個人的な見解であり、弊社を代表する意見ではありません。
執筆:NTTデータ 金融イノベーション本部ビジネスデザイン室 統括部長 山本 英生