『Grasshopper vol.28』 下北沢DaisyBarを舞台にマママ・ダ・マート、komsume、Cloudyが共演【ライブレポート】
2024年12月9日、東京・下北沢DaisyBarにて『Grasshopper vol.28』が開催された。『Grasshopper』は、チケットぴあ注目の次世代音楽シーンを担う若手アーティストを応援するライブハウス企画として2022年にスタート。「若手バンドがたくさんの人に知ってもらって勢いよく飛び立てるようなイベントにしたい」という思いから「Grasshopper=バッタ」と名付けられた本イベントは、見逃せないニューカマーを数多く招き、耳目を集めてきた。2024年最後の開催となった今回は、マママ・ダ・マートとkomsume、Cloudyの3組が出演。汗だくと形容するにふさわしい一夜の様子をお届けする。 【全ての写真】マママ・ダ・マート、komsume、Cloudyが共演『Grasshopper vol.28』(全15枚) Cloudyの守屋浩次(b)も「マママ・ダ・マートさんは『シアター』という曲しかライブ以外で聴ける手段がなかったので単純にライブで他の曲が聴けるのが楽しみです」とインタビューで答えていたが、トップバッターを務めたマママ・ダ・マートの楽曲は、現状「シアター」しかアクセスすることができない。それは裏を返せば、4人がライブハウスにこだわって戦っていることのひとつの証明であり、岡山発の彼らを初めて目撃するオーディエンスも多かっただろう。 どんな楽曲が待ち受けているのかという期待感が充満する中、口火を切ったのは穏やかで素朴な中藤(vo/g)の歌声。粒立ちのハッキリとした近藤(b)のベースやハイフレットのギターチョーキングが3拍子のビート上で踊る「これでいい」をオープニングナンバーに据えると、<あんなに愛していたのに 今はもうない>とひとり言の一節が印象的な「猫」へ。もう部屋へ戻ってくることのない猫背の想い人への恋心を綴った同ナンバーは、五線譜の天井と摩擦を起こすがごとく張り上げるボーカルによって、悲しみが去った後に残る「何だったんだよ」と吐き捨てたくなる怒りを具現化する。「猫」が苛立ちの残り香を代弁してくれる一方で、畳みかけた「国道二号線」「見えなくなるまで手を振るね」は幸せだった日々を回顧する楽曲群であり、日常に空いた隙間を埋めてくれると形容するのがドンピシャだ。 「東京にきたからには名前と曲を覚えて帰ってもらえたら」「沢山の人に爪痕を残して帰ります」と、今宵にかける思いを剥き出しにしたショータイムのラストを飾ったのは「シアター」。フロアを見据え<ただ、ただ、アタシを 見ていて欲しいの><いつまでも会いに行くから 待っていて>と歌う中藤の様子に「シアター」は、自分たちが演者であることを自覚した上で、予想外のドラマを届けていくことを決意する1曲なのだと気づく。番狂わせなんてそうそう起きない毎日に、彼らは筋書き通りでも予定調和でもないエピソードを探しているのである。そして、多くのファンにとって邂逅となったこの日は、まさしくマママ・ダ・マートが志向するエポックメイキングな時間にほかならなかった。 あゆみ(g/vo)の「神戸からkomsume始めます! 前から後ろまで、どうぞよろしく」の開幕宣言と共に「FAKE」で走り始めた2番手・komsumeのステージは、「格好いい曲やります」「世界で一番楽しい夜にしていこう」の煽りで、「百発百中」「Don’t Think!」へ猛進していく。ヘッドバンキング必至のラウドなブロックからスカパート、シンガロングまでが全部盛りのナンバーたちは、「ここでこうきたら気持ち良い」という欲求に全球ホームランで返される感覚があり、彼女たちが影響を受けたと語るメロコアやポップパンクを丁寧に昇華していることが伝わってくる。あゆみの泥臭く真っ直ぐなボーカルにキュートなエッセンスを加えるのんのん(b)のコーラスワークやジンちゃん(ds)のぐっと反るタメも特徴的で、汗だくのフロアを生成していた。 ライブ中盤、あゆみは感謝を伝えたのち、「つい最近も東京に来たばかりだけど、知ってる顔の人もいて。会いにくるって意味があるんだな」と話す。「私にとっては懐かしい歌だけど、みんなにとっては新しい歌」とドロップされた「雨音」は、丁寧にアルペジオが紡がれるバラードだった。夜明けと雨が止む街の光射し込む光景を描きつつも、泣いたとしても明日を迎えても忘れられないモヤモヤとした悩みや、「寝れば忘れるよ」の言葉に収束されてしまうちっぽけな葛藤に対する不甲斐なさを吐露していく。そこから「今こうやって笑顔でいれてるのは、みんなのおかげ。青春の歌!」と「アルストロメリア」を連ねる流れは、痛みを知っているからこその強靭さに満ちていた。 必ずしも花に意味を持たせることは是ではないかもしれないが、アルストロメリアの花言葉は「未来への憧れ」。未来への希望ではなく憧れである点には彼女らの「必ずしも未来が明るいとは限らない」という価値観を読み取ることができる。しかし、komsumeは決して諦めているわけではない。ハッピーだけが待ち受けているわけではないことを分かっているから、3人はいつの日か訪れる幸福を掴み取ろうとしているのであり、「アルストロメリア」で〈僕らは彷徨っていたいよ〉と模索する日々を肯定しているのだ。〈幸せになんてなれなくていいから 本当のことを教えてって〉と叫ぶ「アネモネ」を急遽エンディングに追加し、最後の最後までドラマばかりではない平凡な日々を抱きしめた30分だった。
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