窓を開け放ち、ストレート・シックスの快音を聞く! BMWZ4ロードスター これは命芽吹くスポーツカーだ!!【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】
時代は「細マッチョ」だった!
【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2009年6月号に掲載されたBMW Z4ロードスターのリポートを取り上げる。BMWの小粋なオープン・スポーツカー、Z4ロードスター。低く長くなって、エレガンスさえ漂わせる新型は、きびしいスペインの山道を小気味よく走った。 【写真15枚】2009年モデルのBMW Z4ロードスターはどんなスポーツカーだったのか? 詳細画像を見る ◆コスタ・ブランカにて スペイン東部の地中海に面する「コスタ・ブランカ」(白い海岸)地域の中心都市、アリカンテでは、真っ青な水面と、その青い海に覆いかぶさるようにそびえる沿岸の急峻な岩山の肌とに、「光の都」を意味するその古名(ルセントゥム)の通り、白い光がまぶしく乱舞する。生きとし生けるものの命芽吹く4月初め、BMWはこの光あふれるステージで、新型Z4ロードスターの国際試乗会を開いた。 新型Z4は、20秒のうちにフルオートで開閉するアルミ製の軽量ハードトップを格納した姿では、「屋根なし2座のクルマ」というロードスターの定義になんらもとらないが、ハードトップを上げた姿では完全な2座クーペになる。 2002年に登場した先代Z4シリーズがラグ・トップの「ロードスター」とメタル・トップの「クーペ」の2車型からなっていたのと異なり、新Z4シリーズはロードスターにもクーペにもなる1車型に統合された。この変身が新型Z4の、いちばんのニュースだ。 あたらしいZ4は、オープンでもクローズドでも、旧型よりひときわエレガントになった。この魅力的なエクステリア・デザインを担当したのは、31歳のうら若い女性、ジュリアナ・ブラーシ。社内コンペを勝ち抜いたかの女のスタイリング・コンセプトは、「生きた彫刻」のようなボディ、それもアスリートの肉体をおもわせるそれだったという。アンチ・メタボの世界的風潮のなかで「アスリートのような……」という謳い文句は常道と化していて、それはとりわけ、過・美食の反動からフィットネスに強い関心を抱く(だけの余裕のある)社会的上層人士に向けたクルマのスタイリングに顕著だ。人生を楽しむための上等なオープン・スポーツカーである新型Z4はむろん、その例外たり得ない。 旧型より148mm長い全長と46mm広い全幅、そして8mm低い全高となった新型は、旧型が8等身とすれば9等身化したと感じられるほど流麗でスリムなボディ・ラインを得たうえに、低く長いボンネットを強調するスタイリング・トリックとしてのブラック・アウトされたAピラーとボディ・サイド上下を水平に走るシャープなエッジの立ったキャラクター・ラインによって、時代があこがれる「細マッチョ」なからだつきとなった。 ◆女の時代 インテリア・デザインを担当したのも、うら若い女性のナディア・アルナウト。世界ブランドのメジャー・モデルの内外スタイリングをともに女性が担当したことに、時代があたらしくなっていることを実感するばかりだが、インテリア・テーマもまた、肉体にあった。ただし、こちらは細マッチョなアスリートのというより、スレンダーでありながら肉感的な女性の、ほどよくくびれたトルソ(胴体)。ドライバー・サイドにわずかにスラントしたダッシュボードの、上端と下端が構成する非対称のラインにそれは表現されるという。いわれてみると、たおやかな体の輪郭が見えてくるようにもおもえたが、スポーツカー・デザインにも女性の時代がやってきたわけだ。 試乗に供されたZ4はトップ・パフォーマーの3リッター・ツインターボ直噴直列6気筒を搭載する「sDrive35i」。「Sドライブ」は、4輪駆動モデルを「Xドライブ」というのにたいして、3、5、7の各シリーズ以外のシリーズの後輪駆動モデルに与えられる共通の接頭辞的呼称である。 このSドライブ35iのパワートレインは、335iクーペやカブリオレ用のものとおなじ。306ps/5800rpmと40.8kgm(400Nm)/1300―5000rpmを発生し、ダブル・クラッチ式の7段セミAT(DCT)を介して車重1600kgの2シーターに、0―100km/h5.1秒のポルシェ・ボクスターSをしのぐ加速とリミッターで制限される250km/hの最高速を与える。695万円の価格は、いずれも4座の335iカブリオレの802万円や335iクーペの713万円より安い。同時に発売される2.5リッター自然吸気6気筒、204ps/6300rpm、25.5kgm(250Nm)/2750―3000rpmのユニットを載せる23iは523万円。こちらは通常の6段ATと組み合わされて、0―100km/h6.6秒、最高速242km/hの性能を発揮する。 ◆はげしいワインディング 白い海岸といいながら、BMWが推奨する試乗ルートは、そのほとんどがワインディングまたワインディングの、登るとおもえば下り、下るとおもえば登る、路面も荒れたはげしくチャレンジングなコースだった。スポーツカーの真価をはかるのは、カーブが連続するオープン・ロードでのハンドリング性能だから、それはまたとないしつらえだった。 新型Z4では、ノーマル、スポーツ、スポーツ・プラスの3種のドライブ・モードをスイッチで選択できる「ダイナミック・ドライブ・コントロール」(DDC)が標準で備わる。これはガス・ペダルの踏み込み量とエンジン出力との相互関係、挙動安定装置であるDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)の反応の程度とタイミング、そしてパワーステアリングのアシスト量やシフト・スピードなどを統合制御するもので、これにさらにテスト車が装備していた「アダプティプMサスペンション」のオプションを採用すれば、車高が10mm低くなり、ダンピング制御も加わる。 Mサスペンション付きのテスト車は、標準の17インチから19インチにスケールアップしたアロイ・ホイールに、フロント225/35、リア255/30の超扁平ランフラット(ブリヂストン・ポテンザRZ050A)タイヤを組み合わせていたが、ノーマル・モードでのまろやかで懐の深い乗り心地が強い印象を残した。もっとずっと大きな高級車のように快適で洗練された味わいだ。アルミ・サスペンションによる軽いバネ下と堅固な高剛性ボディの恩恵である。 しかしいっぽう、スポーツ・ドライビングを堪能すべくスポーツ・プラス・モードをえらんでコーナーへの挑戦を開始すると、シフトアップ時の鋭いフュエル・カットとともに発せられる切れのいい排気の炸裂音がシンボライズするように、Z4は全身をタイトに引き締めてずっと小さなクルマになる。BMWのシャシー哲学にしたがい、前後50対50の軸重量配分を有する新型Z4は、ねらい通りのコーナリング・ラインを狂いなく描いていく。コーナー途中で路面がうねっても、4輪はねばり強く接地し、コーナー脱出時に力強い前進力をうしなうことはない。 窓という窓を開け放った新型Z4のなかで、顔をなぶる風とともに皮膚感覚も粟立たせるストレート・シックスの高回転域での快音を耳にしつつ、クルマの回転運動の中心点上に座って小気味よい旋回Gの立ち上がりを楽しんでいると、僕のなかでも春の命が、この白い海岸のおかげだけでなく、たしかに芽吹いたと感じるのだった。 文=鈴木正文(ENGINE編集部) 写真=BMWジャパン ■BMW Z4 sDrive35i 駆動方式 エンジン・フロント縦置き後輪駆動 全長×全幅×全高 4250×1790×1290mm ホイールベース 2495mm エンジン形式 直列6気筒直噴DOHC 24バルブ+ツインターボ 排気量 2979cc ボア×ストローク 84.0×89.6 最高出力 306ps/5800rpm 最大トルク 40.8kgm(400Nm)/1300-5000rpm トランスミッション ダブル・クラッチ付き7段セミAT サスペンション(前) ダブル・ジョイント式ストラット/コイル サスペンション(後) セントラル・アーム式/コイル ブレーキ 前後通気式ディスク タイヤ 前225/45R17 後ろ255/40R17 車両本体価格 695万円 (ENGINE2009年6月号)
ENGINE編集部
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