訓練された犬でも集中できるのは約10分 災害救助犬のココとエマが暗がりの中で捜索
ココからエマに交代
暗闇が迫る中、隊長は8分ほど捜索したココを引き上げて次の救助犬に交代させると判断した。 自宅のある千葉県から輪島市まで、車で長い時間かけて移動してきたうえ、到着後すぐに出動した。しかも小雨が降る中での捜索だったから犬にはそれなりに疲労がたまっているに違いない。 隊長は全体を統括し、安全第一を考える一方で、ハンドラーや犬の負担をできるだけ軽くして、捜索に集中できるように腐心する。それを考えると、ココを8分ぐらいで切り上げて、待機していた救助犬に交代させるのが適切だ。ハンドラーはなんとか要救助者を探そうと捜索にのめり込んで、ついつい時間の感覚を忘れがちだから。 ココと捜索を交代するエマは、昨年、災害救助犬の認定試験に初めて合格した伸び盛りのジャーマンシェパード(メス/4歳)だ。 ココとは性格が反対で、捜索現場を前に意欲が高く、捜索を始める前から「早く捜索に出してよ」とでも要求するように「ワン、ワン」とほえる。この日も訓練と同様にエマは捜索直前にほえた。 私はココを呼び戻すため、「ココ、来い!」と少し低めの通る声で指示した。すると、最初に入った駐車場の隙間からではなく家の左奥、倒壊した屋根の隙間から出て、私のところに戻ってきた。どこかに外へ抜ける隙間があったのだろう。 16時55分、ココの捜索が終了し、エマに変わった。 エマも居間から捜索を始めるらしい。 ハンドラーがエマを屋根にできた亀裂の隙間まで登らせようとした。エマは雨にぬれたツルツルの瓦で2、3度脚を滑らせたものの何とか屋根の隙間に登った。ハンドラーがその先にある穴から居間の中へ入るように指示すると、エマはためらうことなく、すぐに穴の中へ入っていった。 部屋の中に入ると2、3度ほえたが、これは「ママ、探すからね」というエマのいつもの合図だ。エマの場合、ストレス臭をかぎ取ると、できるだけ近くに行ってけたたましくほえる。だから単発でほえる場合と人のストレス臭を探し当てたときの反応がまったく違うのだ。 しかし、部屋の中に入って直接捜索してもそういう反応は示さない。ハンドラーは屋根に登り、開いた穴から中をのぞき込む。 「そうだ、そっちだ」とエマを鼓舞する。 2、3分探させたもののエマの動きに変化がないので、ハンドラーはエマを呼び戻した。 とそのとき、「ココが水を飲んでますよ」とサポーターから声が掛かる。 足元のココを見ると何かにたまった雨水を飲んでいた。 そういえば金沢手前の高速道路のサービスエリアで休憩して以来、水を飲ませていなかった。道路脇に寄せて止まった車に戻って水を飲ませ、ケージの中でココを休ませた。次の捜索はやはり8分後か。そのためにも力を蓄えたい。 しかし、真冬の17時、夜のとばりは容赦なくあたりを暗くした。