東大発医療スタートアップ「Provigate」関水康伸CEOインタビュー(下):日本のスタートアップが活かせる「モノ作りの遺産」と地政学的な追い風
大学ならではのスタートアップエコシステムをフル活用
――Provigateは本社も東大本郷キャンパス内のアントレプレナープラザに構えています。スタートアップ経営者として、大学における産学連携にはどのようなメリットを感じていますか? 学内スタートアップ企業に対する東大のサポート体制は、やはり日本の大学の中でも頭一つ抜けていると感じます。大学発スタートアップの数自体も、東大が圧倒的に多いですよね。起業することが普通という雰囲気が学内にありますし、大学としても起業家教育やシステム作りを一生懸命やっていると思います。 私自身も産学協創推進本部に色々と助けてもらってここまできました。例えば人の紹介。起業家同士の横の繋がりは大事で、苦しい時に相談したい人、頼りになる人というのは、やはり同じ起業家が多い。スタートアップ企業の経営者はみんな、だいたい一度は同じようなところで悩んだり躓いたりするので、親身になって的確なアドバイスをもらえる可能性が高い。そういうネットワーク作りも産学協創推進本部が積極的にアシストしてくれます。他大学だと、たとえば慶應義塾大学などは同窓会組織の繋がりが強くて、経営者同士のネットワークがうまく機能しているイメージですが、東大は何と言うか、もっとプラクティカルに起業家同士が繋がっている感じですね。慶應の塾生や塾員の皆さんのような溢れ出る愛校心はないのですが、実はこっそりと愛校心あるよね、という感じです(笑)。 人脈が作れるメリットはとても大きいです。やはりスタートアップというのは不安定なものなので、しょっちゅう潰れます。そもそも9割5分は潰れるのが前提という世界です。では、ある会社が潰れた後にそこで働いていた人たちはどうなるかというと、実はスタートアップエコシステムの中でぐるぐる回っています。1回のチャレンジで失敗して人生終わりだったら、誰も起業なんてしませんよね。「ベンチャーキャピタル(VC)は分散投資でリスクヘッジをしているが、起業家はオールインだ!」と鼻息の荒い人もいますが、実はちゃっかり縦の時間軸の中でリスクヘッジをしているのが起業家です。今うまくいかなくても絶対に糧になり、しつこくやり続ければ、いつかは成功します。 同じスタートアップでも事業の中身は全然違いますが、例えば人材募集や資金調達など共通の経営課題も多い。投資家のレピュテーションチェックや、いわゆるバックオフィスの人材をどこで探すか、などです。特に法務・知財・財務・人事・マーケなどの業務能力には汎用性がありますから、場合によっては同じ人材を何社かで共有できたりもするわけです。医療スタートアップだと薬事のスペシャリストや知財のスペシャリストが、別々の3社で担当をやっているケースも時々目にします。弊社にも、他のスタートアップ企業と兼業しているスペシャリストは何人かいます。 あとは場所ですね。弊社の場合、精密なセンサーを試作するための実験環境が必須ですが、そんな実験室を作れるビルなんて民間にはそうそうありません。東京都内で、これだけの実験環境が構築できる施設が借りられるのはとてもありがたいです。このアントレプレナープラザという建物自体が、様々な実験装置を導入しやすい設計になっています。同じ敷地内に医学部や工学部もあって、超一流の研究者と日々気軽に意見交換できるのも、私たちのような医工連携スタートアップとしては大きな強みですね。
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