パリ五輪バスケ女子代表の恩塚亨ヘッドコーチが語る12名の選出理由「勝ちから逆算し、あらゆる状況を想定して必要な選手たち」
「高さ対策で選手を入れたら『走り勝つ』という点が機能しなくなる」
今回の代表メンバーを見ると、全体的にサイズ不足なのは明らかだ。最長身は髙田の185cmで、OQTでは180cmの馬瓜エブリンがセンターを務めていた。また、三井不動産カップでは163cmの山本、164cmの本橋がシューティングガード、スモールフォワードの柱は173cmの林、その両方のポジションを難なくこなせる184cmの赤穂はパワーフォワードとかなりのスモールラインアップである。 パリ五輪の出場国は、どこも高さ、フィジカルで日本より勝っている。ただ、それはサイズを重視したメンバー構成にしても同じだ。だから恩塚ヘッドコーチは、「高さ対策でコンセプトに合わない選手を入れたら『走り勝つ』という点が機能しなくなります」と、マイナス面を埋めることより自分たちの強みを最大限発揮することにフォーカスしたと説明した。 ちなみにOQTではリバウンドで後手に回ったが、恩塚ヘッドコーチは単純な高さ以外の理由のほうが大きかったと振り返る。 「課題としてリバウンドが一番大きいことは理解しています。OQTでは3試合で36本ものリバウンドを支配されました。何故、取られてしまったのか分析した結果、20本はサイズが関係ない私たちの努力不足でした。今はこれを選手任せにするのではなく、どういう時に努力がやりきれなくなるのか原因を追求してトレーニングをしています」
「あらゆる状況に対しても自分たちの強みを出し切れることを優先」
五輪出場国を見ても、日本ほどスピードと3ポイントシュート重視のスモールバスケットに振り切ったチームはない。これは日本にとって唯一無二のアドバンテージだが、東京五輪の時と比べ世界は、日本がどんなスタイルで来るかを熟知している。この対策に対し、無力だったのがグループリーグ敗退に終わったワールドカップだった。 そして、そこから進歩し相手の対策を逆手にとる適応力としたたかさを発揮したのが、パリ五輪行きを決めたOQTのカナダ戦だった。カナダの徹底した3ポイントシュート封じを受けた日本代表が、スペースが生まれたゴール下へのドライブから高確率でシュートを決め、勝利に繋げたのは記憶に新しい。 対戦国はOQTにおける戦い方を踏まえた対策を取ってくるだろう。恩塚ヘッドコーチは「隠しているところもあります」と語るが、何よりも強みにより磨きをかけていくとコメントする。 「しっかり試してみないことには課題も見えなくなるので、一旦、ベースとなるものはできるだけ出してトレーニングしているところです。ただ、相手が私たちの強みを消しにきた時、それがスイッチになって強みを発揮できる仕組みと戦術については、幅広く準備をしているところですし、そこを突き詰めていきたいです。相手を驚かせるプレーは必要ですが、驚かそうとしても相手が驚いてくれるかはわからない。あらゆる妨害、カオスな状況に対しても自分たちの強みを出し切れることを優先して強化しています」 競技の特性上、バスケットボールにおいて高さが大きなアドバンテージであることは明らかだ。だが、それは絶対的なものではなく、強さの定義とは1つではない。そして、恩塚ヘッドコーチの考える強さとは、「自分たちにあるけど、相手が真似できないもの。強さの尺度を相手との違いにおいてチームを作ることで、結果として日本の強みを最大限に発揮できる」となる。 この日本オリジナルの強みを貫き通すことができれば、再び五輪の舞台で世界を魅力することはできるはずだ。
鈴木栄一