西日本新聞　社説

　石破茂首相は「地方創生を再起動する」と表明した。年間1千億円規模の関連交付金を予算ベースで倍増する方針も示した。 　10年前に初代担当相を務めたこともあり、地方創生には強い思い入れがあるようだ。地方重視の姿勢は良い。では多額の交付金を何に使い、何を目指すのか。 　衆院解散後の記者会見で首相は「農林水産業の力を最大限引き出す」「サービス産業を高付加価値化する」「人工知能（AI）、半導体への企業投資を引き出す」と例示した。どれも新味はない。 　そもそも地方創生とは何かが判然としない。漠然と再起動すれば、大した成果がなかった過去10年と同じ結果になるだろう。 　地方創生は2014年に第2次安倍晋三政権が始めた。特に地方で深刻化する人口減少が背景にあった。 　当時は東京一極集中の是正を掲げ、東京圏1都3県への転入人口と転出人口の均衡を目指した。少子化を見据え、若い世代の就労や結婚、子育ての希望を実現することも目標にした。 　10年を経て、東京圏への転入超過は変わっていない。出生数の減少にも歯止めがかからないのが現状だ。 　政府は今年6月に地方創生の10年を総括した。地方への移住者が増えたことなどを成果に挙げたが、目標に照らせば微々たるものだ。 　首相も胸を張れない。国会の代表質問で問われると「住民が心を一つにして地方創生に頑張る姿を全国各地でたくさん見たのは大きな成果」と答弁する程度だった。 　首相が担当相だった頃、地方創生の総合戦略を策定する自治体に口酸っぱく注文したことがある。政策に数値目標を設定し、PDCA（計画－実行－評価－改善）を徹底することだ。 　翻って、政府はそれを実行したか。6月の総括文書からは読み取れない。地方創生の再起動には過去の詳細な検証と反省が欠かせない。 　首相は近く「新しい地方経済・生活環境創生本部」を設置し、今後10年の基本構想をまとめるという。構想が決まっていない段階で交付金倍増を打ち出すのはおかしい。衆院選対策のにおいがする。 　地方創生の交付金は経済から福祉、教育まで自治体の幅広い事業に活用された。 　ただし、政策効果には疑問符がつく。新型コロナウイルス対策の臨時交付金を含め、会計検査院から不適切な使い方が指摘された。自治体にも反省が必要だ。 　首相は、新たな地方創生は日本再生の試みで「社会の在り方を根本から変える」とも述べている。一体何がしたいのか、ますます分からない。 　地域づくりは自治体や住民に任せ、国は後方支援に徹してもらいたい。中央集権的な地方創生は無用だ。