韓国・野党代表の失脚見据え「時間稼ぎ」…首相と与党の国政運営 尹大統領の逮捕「可能性高い」
静岡県立大の奥薗教授に聞く
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が宣言した「非常戒厳」は、韓国社会に大きな混乱をもたらしている。野党提出の弾劾訴追案は廃案となり、尹氏は大統領のままだが、首相と与党が国政運営を担う暫定的な形は機能しないと懸念されている。尹氏に対する内乱容疑の捜査も始まり、退陣を求める市民デモは勢いを増す。静岡県立大の奥薗秀樹教授に8日、ソウルで今後の政局の見通しについて聞いた。(聞き手は山口卓) 【写真】尹錫悦大統領に「非常戒厳」宣言を進言したとされる金龍顕前国防相 -尹氏はなぜ戒厳令に踏み切ったのか。 少数与党になって国会を動かす求心力を失い、妻金建希(キムゴンヒ)氏の問題も含めて国会で追い詰められた。政治経験がゼロのまま大統領になった尹氏が最終的に信じたのが出身組織の検察や軍、高校の人脈だったのだろう。冷静に判断できる状況だったのか、疑問を感じる。 -与党「国民の力」は、尹氏の弾劾訴追案を廃案に持ち込んだ。 韓東勲(ハンドンフン)代表は一貫して「時間稼ぎ」をしているように見える。尹氏を大統領にとどまらせることはできないが、今すぐ辞任となると次期大統領選で最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表が当選する可能性が高く、韓悳洙(ハンドクス)首相による事実上の職務代行でしのいでいく考えだ。李氏が公職選挙法違反事件の訴訟で有罪となって被選挙権が剥奪され、選挙に出られなくなるのを待っているのだろう。 司法によって李氏の大統領選出馬が不可能になるのを待つ与党と、その前に何としても尹氏を辞めさせ、早期に大統領選に持ち込みたい李氏との闘争になる。 -韓国社会では尹氏の弾劾を求める声が強い。与党による国政運営への反発も出ている。 尹氏を大統領職にとどまらせたまま、首相が事実上、職務代行することは違憲との指摘がある。 野党は弾劾案の提出を続け、与党側の違憲性を世論に訴えるだろう。与党がそれにどこまで持ちこたえられるかはわからない。 -事態が動き出すタイミングをどう読むか。 李氏の公選法違反事件の高裁判決は来年2月ごろとみられている。一審に続いて有罪となれば、野党内でも李代表では戦えないとの動きが出てくる。そのタイミングで与党も弾劾案に賛成するか、尹氏の退任を容認する方針転換があると思われる。最高裁判決が下され、就任3年となる5月上旬も一つのポイントだ。 -尹氏の今後は。 内乱や職権乱用の容疑で逮捕される可能性が高いのではないか。ただ、逮捕後もすぐに辞任せず、韓首相体制で踏ん張りながら、李氏の失脚を待つことも考えられる。鍵を握るのが世論の動向。反発が制御できなくなると政治的思惑で大統領にとどまることはできなくなり、一気に弾劾や退陣へ動く可能性が高い。