最低賃金の引き上げで人材流出防げるか…全国最大上げ幅84円の徳島、知事「地域間競争勝つため」
新しい最低賃金(時給)が各都道府県で適用される中、今月から全国でも過去最大の84円の引き上げとなった徳島県が注目を集めている。背景には地方で深刻化する人手不足があるが、賃上げを迫られる地元企業からは困惑の声が漏れる。異例の引き上げは人材流出に歯止めをかけるのか。その行方は来年以降の各地の最低賃金の議論に影響を与える可能性がある。(徳島支局 徳永翔太) 【表】今年度の最低賃金
厳しい経営
「ここまで上がるとは思わなかった」。徳島市でヨーグルトを製造販売する「タンタンヨーグルト工房」の大上順市代表(49)は、引き上げ額を聞いた時の驚きが忘れられない。 県の昨年度の最低賃金は896円。工房では、これまで時給900円でアルバイトを雇っていたが、新しい最低賃金980円が適用される今月から時給を1000円に見直した。 この5年間で原料の牛乳は2割ほど価格が上昇し、容器代も値上がりしている。時給を上げるのに伴い、商品価格の値上げも決めたが、経営は厳しい。大上代表は「大手のように強気な価格転嫁はできない。切り詰められる部分を探して乗り切りたい」と話した。
最後に決定
最低賃金は、厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会が引き上げ額の目安を示し、各都道府県の労使代表らでつくる地方審議会が実際の額を決める。 中央が今年7月に示した目安は過去最大の「全国平均50円」。8月以降各地で続々決定する中、徳島県は最後の8月29日にずれこみ、目安を大きく上回る84円の引き上げに決まった。目安を30円以上上回るのは極めて異例だ。 伏線は1年前にあった。昨年度、徳島県の最低賃金は、比較的早い8月7日に決まり、目安を1円上回っただけだった。その後各県が大幅に引き上げ、徳島の順位は、前年度の全国33位から45位に転落していた。 他県との賃金格差が広がれば、人材が他県に奪われかねない。県内の20歳代の人口は毎年転出超過で、23年までの5年間で6000人以上に上っている。 県も危機感を強め、後藤田正純知事が審議会に出席し、「地域間競争に勝つため」として、大幅引き上げを求める異例の意見陳述を行った。 審議会関係者は「徳島の経済状況を踏まえて、全国中位より上と判断した」とし、知事の影響や他府県の様子を見たことを否定するが、異例の引き上げは県内外に衝撃を与えた。