社内にたった一人で“違和感”を口にできるか?「BPaaS」推進するkubell桐谷豪が語るコミットの本質
仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者のみなさんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。 今回登場いただくのは、株式会社kubellの桐谷豪さん。 あの、ビジネスチャットで有名なChatwork株式会社は、2024年7月に株式会社kubellに社名変更。 コーポレートサイトでは「これまで培ってきた圧倒的な顧客基盤と、ビジネスチャットという高価値なプラットフォームを背景に、DXされた業務プロセスそのものを提供するクラウドサービス、『BPaaS』を次の成長の柱としていきます」 「ビジネスチャットの会社から、BPaaSで『働く』を変えるプラットフォームを提供する会社へ」 と説明されています。 BPaaSとは、「Business Process as a Service」の略で、「業務プロセスアウトソーシングサービス」。つまり、企業がおこなっていた業務を外部に委託できるクラウドサービスのことです。 この「BPaaS」に注力しているのが、今回お話しいただくkubell桐谷さん。 桐谷さんが繰り返し口にしたのは“違和感にもマジメに向き合う”ということ。組織で生きる僕らが飲み込んでしまいがちなその“向き合い”…。学ぶことがたくさんありました。 〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
狂気とも言えるコミットをしているからこそ「違和感に忠実に」なれる
天野 桐谷さんは、ご自身の特性というか、“まわりからこう表される”というポイントってありますか? 桐谷さん なんだろう。「狂気」とか言われることが多いですけど… たとえば、BPaaSってツイートをしている人の投稿、この2~3年ぐらいは全部見にいってるし、その人が何をしている人かも全部見てるんですよ。 「ストーカーみたい」って言われてます(笑)。 Chatworkに入社した当時は、インサイドセールスのメンバーが顧客対応の電話してる録音を毎日何時間か聴きながら寝てました。 天野 寝るときに!? それはなぜ… 桐谷さん “知らないと不安”っていう感じですかね。「ビジネスをやっててお客さんのこと知らないなんてあり得ないでしょ」っていう感覚かもしれないです。 天野 今は「BPaaS」に熱狂的に注力されてるってことだと思うんですが… SaaSのようなクラウドサービスとの大きな違いは何なんですかね? 桐谷さん いろんなサービスがたくさん出てきたけど「あんまり企業のなかで使いこなされてない…」というリアルがあったと思うんです。 自分は“スタートアップ界隈の中の人”としてずっとやってきたんですけど、SaaSという概念だけでは、日本を変えるのは難しいという違和感を覚えたんです。 天野 「日本を変える」って具体的にはどういうイメージなんですか? 桐谷さん 分かりやすく言うと、日本の会社の99.7%が中小企業なんですよ。 SaaSの会社として、そういった非ITの中小企業を顧客にするビジネスを成功させようとすると難易度は上がるわけです。 そこを排除してビジネスをするのは資本主義としては正しいけど、そのズレが気になったんですよね。なので当時のChatworkに入社して、違和感を解消しにいった。 天野 それ、おいくつぐらいのときですか? 桐谷さん 25歳ぐらいのときですね。こういうスタートアップを続けていて、果たしていいんだろうか?と感じてしまった。 天野 かなりキャリア的には早い段階で。 そこからBPaaSという概念にたどり着いた経緯はどんな感じだったんでしょうか。 桐谷さん Chatworkの仕事でさまざまな中小企業にツール導入の提案をしていると「ツールを入れても、ウチでは使いきれないですよ」という話をたくさん聞くようになって。 “ここを改善しないと、日本の生産性が上がらない”と痛感したんです。 そんなタイミングで、福島広造さん(ラクスル株式会社→BCG)がX(Twitter)で、「“SaaS+オペレーションwithテック”の時代だ」とおっしゃっていた。つまり、ITサービスに、人によるオペレーションや技術のサポートが入って、広く使われるようにすべきだと。 そこから、社内のメンバーがそんな概念を表す「BPaaS」という言葉を見つけてきた…という流れかと思います。 SaaSに対する閉塞感とか違和感は、みんなが共通して持っていたので、しっくりきたんでしょうね。 天野 みんながうっすらと違和感を覚えていたなかで、桐谷さんが突破できたというか、新しい概念にベットできたのはなぜなんでしょうか? 桐谷さん 自分たちを否定することを怖がらない…という姿勢があったからかなと思います。 新規事業って、やはりある程度は今までの自分たち、あるいは業界を否定する部分はあると思うんです。 自分は「SaaSだけではきついと思う」と社内外問わず言っていましたし、違和感から逃げずに向き合うっていうことですかね。 天野 サラリーマン的に考えると、最初におっしゃっていた“0.3%に向き合っている”ほうが心地よく仕事できちゃうと思うんです。会社がそういう方向を向いていたら自分もそうなりそうだなと。 そこで自社を否定できた根源をお伺いしたいんですが… 桐谷さん それは、ファーストキャリアの影響が大きいと思います。 自分が学生時代に創業メンバーとして入った会社が、ユニコーンまでバーンといったんです。 そのときに「世の中って変わるんだ」っていう感覚がすごく身について。 天野 最初に入った会社というのはどちらに…? 桐谷さん 新電力系のスタートアップに入ったんですが、その後、なかなかうまくいかなったことがあって… それで、「もう絶対に失敗したくない」という気持ちが強いんだと思います… コミットが足りなかったことへの「後悔」がすごくあって。 天野 なるほど。どんなことを後悔されてるんですか? 桐谷さん 違和感があったときに、「もっと調べておけばよかったのか?」「あと一声だけでも声をかければよかったのか?」…とか。 会社や組織が“やれるやれる”っていう雰囲気のときに、「いや大丈夫ですか? 本当にこの方向性でいいですか?」っていう一言を言えるかどうか。 みんながポジティブな雰囲気のときに違和感を口にすると、なんとなくネガティブなヤツになってしまう構造なので、言い出すことがすごく難しい。 天野 うーん、なるほど… 組織的に引っ張られて「まあいいか」となってしまったのは、「本当にコミットしてるわけではなかった」という… 桐谷さん そうですね。その反動で、今は少しの違和感でも言うようになりました。