結婚したら、夫のお金は私のお金…欧米人からは首をかしげられる日本人の価値観。「夫婦の財布は1つ」の慣習にある、経済的リスク【中央大学教授が解説】
「成人後も実家で暮らす」「結婚後は家計を妻が管理する」などの日本特有の慣習。これにより、愛情のない夫婦が離婚できない原因になっている可能性も……。本記事では、社会学者で中央大学文学部教授の山田昌弘氏の著書『パラサイト難婚社会』(朝日新書)から、お金を巡る日本独自の家族像とそのリスクについて解説します。 【早見表】年金に頼らず「1人で120歳まで生きる」ための貯蓄額
稼ぎと表裏一体の愛情の搾取
男女共に「独立心」が強いのは、欧米と日本との大きな違いです。男性であろうと、女性であろうと、ヨーロッパやアメリカでは、成人したのちは経済的にも住居的にも親から自立することが求められます。 対して日本では、成人後も実家に居続ける若者が多く、それを私は「パラサイト・シングル」と名付けましたが、欧米では大学進学(もしくは高卒就職)と同時に、親元から離れるのが一般的なのです。 一人暮らしをしたり、仲間とルームシェアをしたり、大学の寮に入ったりした彼らは、よほどの大病や事故、不幸な出来事が起こらない限り、「実家に戻る」という選択肢を持ちません。 私が聞いたある国では、子どもは成人するまでは両親を「お父さん、お母さん」と呼ぶが、成人したら互いにファーストネームで呼び合うという慣習もありました。要するに、自立しているのです。 「結婚したら、夫のお金は私のお金」 それと似たような感覚で、世界では理解されにくい日本の慣習もあります。それが「結婚したら、夫のお金は私のお金」と考える女性が多くいるという事実です。 実際に、夫の給料は妻に預けられ、妻から夫に「お小遣い」が支給されるシステムが、昭和時代からの伝統で、令和の今もそのスタイルを持続する家庭が多く見られます。私が今回行った「親密性調査」でも、「家計のすべてを妻が管理する」が全体の45%を占めていました。 「夫が生活費を妻に渡す」は25%と少数派で、夫婦「共通の財布」は10%。 実家で暮らす間は、「両親が自分の面倒を見る」のが当然な日本では、結婚したら「夫が自分の生活の経済的安定をもたらす」のが当然と考える人が多いのでしょう。 同時に、海野つなみさんの漫画が原作のテレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)では、主演の新垣結衣さん演じる森山みくりが、非常にインパクトあるセリフを放ちました。 〈私、森山みくりは、“愛情”の搾取に断固として反対します〉というセリフです。 ここには「結婚」すれば、「女性には自動的に男性(夫)の給与がもたらされる」という考えと表裏一体である、「結婚」をしたら「男性には女性(妻)の家事労働が無条件に与えられる」という極めて日本特有な結婚観が象徴されているのです。
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