「キックバック」「利権構造」で利用者が損をしている【火葬場のタブー】“行政のキーマン”区長と区議が語る「改善するためには行政の関与が必要」
東京の近隣自治体では、費用の一部を自治体が補助する「市民葬」の制度
東京23区の特別区長会会長であり、落合斎場が所在する新宿区の吉住健一区長はこう述べる。 「現在の法律では火葬場は区が所管することになっており、民間火葬場に対しては各所在区が連携して立ち入り調査などを実施しています。区民葬の利用率はコロナ禍前は3~4%程度でしたが、現在は10%近くにまで増加しています。コロナ禍を経て大きく社会が変わり、葬儀も会葬者を呼ばない形式をとるかたが増えており、かつては生活困窮のかたのセーフティーネットという側面があった区民葬ですが、ここまで利用者が増えたのであれば、公平な制度にするために改善を検討する必要があるかもしれません」 さらに、永田氏もこう指摘する。 「学生時代に葬儀社でアルバイトをした経験があるのですが、葬祭業者の場合、格安の区民葬でも利益が出せるのでしょう。しかし、火葬費用の減額分は民間火葬業者に負担を強いている。区民葬の利用者が増える一方で、制度が古く実態にそぐわない部分があるのなら、行政の補助金を入れることも検討すべきです」 実際、東京の近隣自治体でも「市民葬」の制度を持つところは少なくない。費用の一部を自治体が補助する仕組みがあったり、受注業者を組合加盟者に限定していなかったりと、都内よりも公平で公正な開かれたサービスになっている。 「たとえば、埼玉県の新座市は、市民葬に民間の火葬場を使用していますが、正規料金から約2万円引きで利用でき、同業組合の利権もありません。また、同じく埼玉県の川口市は市民葬の費用に補助金を拠出し、葬祭事業登録業者の資格要件をホームページに公開。市指定葬業社への登録を募っています」(前出・都政関係者) そうしたオープンなシステムこそ不公平感や利権化を防ぐための、ひとつのモデルケースになるのではないだろうか。
トラブルになったら電話番号を変える
「キックバック」や「区民葬」に関しては、業界の因習による利権が生まれる側面があるのは事実だが、一方で“街の葬儀屋さん”の安心感は小さくない。 全東葬連の関係者が話す。 「私たちは地域に根ざした葬祭業者で組織している。最近は加盟社でないインターネットで大々的に広告を打つような葬儀社が目立ちますが、無関係の我々のところにもそういった業者へのクレーム電話がかかってくることが増えました。どうも、広告と実際の料金が違ったりするんです。これに対抗するため、これまで広告に積極的でなかった会社の中にも“誇大広告に騙されないで”という意味で自社の広告を出し始める会社が増えているんですよ」 2021年には、小規模な葬儀をうたうある業者が「追加料金一切不要」「プラン金額がすべての費用」などと広告して集客していたが、その内容が虚偽だったとして消費者庁から処分、景品表示法に基づく課徴金納付命令を受けた。 それ以外にも、国民生活センターには相談が寄せられている。 「ネット上の『1日葬30万円』『葬儀1か月前に予約すると5万円引き』という記載を信用し、葬儀を申し込んだところ、3倍近い見積もりを提示されたり、事前予約での割引自体が存在しなかったりという相談がきています。 こうした場合、会社側からは『ネットの仲介業者が勝手に記載していた』と説明されるケースが多い。また、『提携式場○千件』という紛らわしい記載で、ネット葬儀社と斎場が提携関係にあると誤解する利用者も多いようです」(国民生活センターの担当者) インターネット検索で出てくる葬儀業者はきれいなホームページを持ち、懇切丁寧な対応をうたうが、その実態は玉石混淆だ。また、単なる「仲介サイト」の場合もあるので、慎重に選びたい。 「登場した当初は中間マージンを省き、遺族や本人のニーズに合った葬儀をよりリーズナブルな価格で提供するというよさがあったネット葬儀社ですが、最近では“拝金主義”の会社も増えてきているようです。 免許も登録も不要な葬祭業者は、名乗るだけですぐに始められる。残念ながら、顔の見える関係もないから“トラブルになったら業者名や電話番号を変えてしまえばいい”と考える悪質業者も存在するのです」(葬祭業経営者) 2075年までは、死亡者数が増加し続けると推計される日本社会。誰もが葬儀や火葬に直面することになる以上、平時から実態を把握し、関心を持つことが大切。利用者が目を向けたその先で、より透明化された火葬や葬儀が実現されることになるはずだ。 ※女性セブン2025年1月1日号