ハンドルを握るのが怖い…約3年間「1日12時間労働」を続ける月収34万円・53歳宅配ドライバーの悲痛な叫び【ノンフィクション】
オーバーワーク続けるも、期待外れの収入に「情けない」
「デスクワークじゃないでしょ、基本は荷物を持って駆け足。そりゃ疲れる」 収入も期待していたほどではない。 「4週6休、月24日稼働で34万円前後、休みを週1にしたら37万円ぐらい。これが精一杯です。モデルケースとして記されていた月収40万円とか50万円以上可なんて無理です。少なくてもわたしには出せない数字ですよ」 1ヵ月の労働時間は平均280時間前後だから、1時間単価はせいぜい1,250円程度。近所にあるパチンコ屋がアルバイトを募集していて、時給が1,450円となっていたから嫌になる。 「ガソリン代はもとより、車の維持費は全部自分持ち。タイヤ交換やオイル交換用に天引きしておくのを含めると4万円ぐらい出ていきます。これも大きいですよ」 運送会社の社員ではないから社会保険は自治体の国民健康保険と国民年金に加入しているが、この保険料も毎月6万円ちょっと払っている。 「こんなわけで相変わらず妻のパート収入が頼りなんです。情けなくなってくる」 体調も良くない。この仕事を始めて腕痛、腰痛、膝痛がひどくなった。休んでも疲れが取れず、ひどい倦怠感に襲われる日もある。 「やっぱり働き過ぎなんでしょうね。自分でも危険だと思うことがあるから」 特に昨年末はひどかった。12月はお歳暮とクリスマスが重なるので荷物の量が格段に増える。休みはたった3日で、大晦日も夜8時まで働いていたほどだ。初めて月収が40万円を超えたが労働時間は320時間もあった。 「三が日はどこへ行く気もなかった。寝正月というより過労で倒れていたのに近い」 最近は心配した奥さんに「もう辞めた方がいい」と言われている。 「妻が言うには、いつも顔色が悪いし人相も変わったと。まあ、自分でも鏡を見ると急に老け込んだなあと思います」
しくじった…“業務委託”に隠れた落とし穴
あくまで噂話だが、別の営業所に出入りしている委託ドライバーが突然死したという話を聞いたこともある。自分の健康と同じく、事故に対する心配も大きい。 「ここまでは無事故でやってきたけどヒヤリとしたことは何度かある。特に終わり近くの夜間は怖い、朝からの疲れが影響しているのか睡魔に襲われて瞬間的に意識が飛ぶことがある。信号と信号の間400メートルくらいの距離を何も覚えていないことがありました」 一昨日の夕方には環七通りで2トントラックと乗用車、オートバイが絡む多重事故を処理している現場横を通ったのだが、こういうのを見てしまうとハンドルを握るのが怖くなる。 「社員じゃないからぶつけてもぶつけられても、会社が助けてくれたり事後処理をしてくれたりはしません。有給休暇もないから干上がってしまう」 この仕事を始めてそろそろ3年になるが、正直なところ「失敗したなあ」「こんなことだとは思っていなかった」というのが本音だ。 「新しい働き方と言われ、いいかもしれないとやる気になりましたけど、現実には会社に都合のいい働かせ方だと思うんです。雇用契約がないから社会保険に加入しなくていい、健康診断もやらない、退職金も払わない。安く使うための方便だったと気付いたけど後の祭りです。しくじったと思いますね」 病気や怪我、事故の場合でも業務委託だから簡単に切られてしまう。やっぱりおかしいと思うのだ。 「辞めたらマンション管理人に戻るか、ハローワークでよく勧められた介護。さもなくば求人倍率が高い警備ぐらいしか行くところがない。それでも今よりはましかなって思うんです」 このままでは早晩、身体を壊すか事故を起こしてしまうかだと思うのだ。 食品会社をリストラされてよく分かったのは、やり直せる社会なんて嘘っぱちだということ。 「1度の失敗やつまずきでおしまい。これが本当のことですよ」 特別な資格や特技のない人間は、ひたすら長時間労働するか賃金の低い仕事に甘んじるしかない。こんな社会に希望があるのかと思う。 増田 明利 ルポライター
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