ナチス犯罪、80年後の有罪なぜ？ 1万505人殺害「支えた」当時18歳の女
「禁固3年未満」は不問も
なぜ立件にこれほど長い時間がかかったのか。これを知るためには、ナチス犯罪と向き合ってきたドイツの戦後を振り返る必要がある。 ナチス政権や親衛隊構成員に対する犯罪追及は戦後すぐに始まった。1945年にナチス党ナンバー2のゲーリングら高官22人を裁いたニュルンベルク国際軍事裁判が開廷。前後してドイツを分割統治した米英仏ロも訴追を続けた。その後は東西ドイツが引き継ぎ、58年には検察組織「ナチス犯罪追及センター」が設立された。センターはいまなおナチス犯罪捜査の司令塔を担い、フルヒナー被告も起訴に導いた。 しかし戦後しばらく、ドイツは現在ほど追及に熱心ではなかった。占領国に罪を押しつけられているとの反発は国民に根強かった。西ドイツでは、徐々に元ナチス党員の社会復帰が進み、ナチス政権の命令で行われた禁固3年未満の犯罪は不問に付された。一方、外交面で他国からの信頼回復を図るため、ナチスの過去を悔い改める姿勢を示す必要もあった。ドイツは、ナチスの暗い過去に対する拒絶と反省との間で揺れ動いてきた。
19年の論争経て時効撤廃
揺れるドイツの象徴が、ナチス政権による殺人の時効を巡る「時効論争」だ。西ドイツでは元々、計画的な殺人を罰する謀殺罪には20年の時効があった。一部犯罪の時効成立が迫っていた60年、国会では時効の撤廃を巡る論争が起きた。「ナチスの過去にどう区切りを付けるか」が問われた。 時効廃止を訴える左派勢力に対し、保守政党は「法律の安定性」を理由に反対した。ナチスの過去を早くぬぐい去りたい世論があり、論争になかなか決着が付かなかった。国会は、戦後直後の時効の起算日を1945年から1949年末に後ろ倒ししたり、時効を20年から30年に引き延ばしたりし、結論を先送りした。 時効撤廃が決まったのは、論争が始まってから19年後の79年。ホロコーストを扱った米テレビドラマがドイツ国内で放送され反ナチス感情が高まったことや、ナチスと直接つながりのない世代による学生運動が盛んになったことが背景にある。それでも撤廃法案の国会採決では、賛成の255票に対して反対が222票と、拮抗（きっこう）していた。
