亡くなった夫に多額の借金があることが発覚しました。マイナスな財産の対策として「限定承認」という方法があると聞いたのですが、相続放棄とはどう違うのですか?
限定承認
限定承認は、被相続人にどのくらいの借金があるか不明な場合や、債務超過が明らかだけれども自宅などの特定財産を承継したいときなどに選択するメリットがあります。すなわち、限定承認は相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務(借金)および遺贈を弁済することを留保して相続の承認をする方法です(922条)。 たとえば、1億円の相続財産を相続した後に、借金が1億3000万円あるとわかったとしましょう。このとき、限定承認していれば、1億円の範囲で借金を返済すれば良く、残りの3000万円は返済する必要がなくなります。 限定承認をするには、相続財産の目録を作り、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません(924条)。相続人が2人以上いる場合は相続人全員が限定承認しなければなりません(923条)。 限定承認をした場合、金銭以外の財産は競売によってすべて換価する必要があります(932条)。 しかし、相続人の中に自宅など限定承認者が保有し続けたい財産がある場合、競売による換価ではなく、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を限定承認者が、自己の固有の財産から弁済すれば競売を止めることができます(932条)。 限定承認を選択した場合、相続開始の日に被相続人から相続人に相続財産が時価で譲渡されたものとみなされ、譲渡所得税が課税され被相続人の債務となりますので注意が必要です。譲渡所得に関しては相続の開始のあった日から4ヶ月以内に被相続人の準確定申告が必要になりますので忘れずに申告しましょう。 限定承認をしても相続人であることには変わりありませんので、生命保険金の非課税枠を利用できます。債務控除も利用できますが、本来の相続財産を超える部分については受けることができません。
まとめ
限定承認は、相続財産の中に特にほしいものがある場合や、わかっていない借金が存在する可能性がある場合に有効です。 相続放棄と限定承認とでは、申述の方法(単独で行えるか全員の承認が必要か)や相続人の地位、課税関係などの取り扱いが大きく異なります。限定承認の選択を考えている方は、相続法と相続税・所得税の両者に詳しい弁護士や税理士に相談することをお勧めします。 出典 国税庁 e-Gov 相続放棄に関する民法の主な条文 民法915条~940条 国税庁 e-Gov 限定承認に関する民法の主な条文 民法第922条~937条 国税庁 No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法 執筆者:新美昌也 ファイナンシャル・プランナー。
ファイナンシャルフィールド編集部