日本版データスペース「ウラノス・エコシステム」が目指す欧米の良いとこ取り
「CEATEC JAPAN 2024」(2024年10月15~18日、幕張メッセ)において、情報処理推進機構(IPA)理事長 兼 デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC) センター長の齊藤裕氏が「『ウラノス・エコシステム』が実現する業界や国境を超えたデータ活用の将来像とは」をテーマに講演を行った。本稿ではその講演の内容をお伝えする。 連邦型をイメージしたウラノス・エコシステムの連携イメージ[クリックで拡大] 出所:IPA
データ駆動型社会の実現に必要なデジタルエコシステム
ウラノス・エコシステムは、企業や業界、国境を跨ぐ横断的なデータ共有やシステム連携を行うための、日本版のデータスペース(データ共有圏)だ。経済産業省が主導し、関係省庁やIPAのDADC、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが参画し、2023年4月に公表されている。 講演で齊藤氏はまず、ウラノス・エコシステムが必要となる背景としてデジタル変革の動向とそのために必要となるデジタルエコシステムについて説明した。 日本政府はデジタル革命がもたらすデータ駆動型社会として「Society 5.0」を訴えているが、従来の社会との違いとして齊藤氏は、データを基に「コト」として価値を生み出し、提供する社会に変わることを説明する。「第1~第3次産業革命の時代は[動力源としてのエネルギー』を資源として『モノ』で価値を生み出す時代だった。第4次産業革命では、『データ』を資源とし、データから知見を生み出し『コト』を提供する時代となる。ビジネスの差別化の要因もモノからコトになる」(齊藤氏)。 ただ、データ利活用を最適化して価値を生み出しやすくするためには、従来の枠組みを超える形でデータの利活用を可能とする共通基盤(デジタルエコシステム)が必要になる。デジタル時代のエコシステムは、ネットワークで連携し1つの企業や団体では提供できない価値を作るものだ。そのためのシステムは、複数のシステムを組み合わせて全体最適化したシステムを構築する「System of Systems」が理想だ。 齊藤氏は「そもそもエコシステムとは、自然界の生態系のように異なる事業者が連携、補完し合って実現する共存共栄の形だ。ルールに基づいて相互に価値を交換し、パートナーも育てる。リーダーが中心となってプラットフォームを形成し、エコシステム全体で価値を作り出すというのが理想だ。GAMA(旧GAFA)などのメガプラットフォーマーの事業モデルが代表的だが、かつての日本のケイレツモデルやPCにおけるWintel連合モデルなどもその原型だといえる」と考えを述べる。 米国のメガプラットフォーマーは、標準化されたプラットフォーム構築をベースとし、サービス環境をグローバルで標準化することで多者のサービスを一元的に提供できるようにしたことが特徴だ。プラットフォーム上でユーザーのニーズに応えて、複数のパートナーで「コト」を実現する。「コア以外の部分は他社にゆだね、プラットフォームがAI(人工知能)などを活用して自動的にビジネスを回す仕組みを作り、成長を続けている」と齊藤氏は述べる。 これらの米国メガプラットフォーマーに対抗する動きを見せているのが欧州だ。1社が中心となって共通基盤を作り出すメガプラットフォームに対し、欧州では政府などが関与し自律分散連邦型の共通基盤を展開しようとしている。データ主権を担保したデータ共有の標準やルール策定を目的とした組織であるIDSA(International Data Space Association)などが中心となってルール作りを推進する一方で、欧州における共通データ基盤の策定を行うプロジェクトであるGAIA-Xなどが進行中だ。 連邦型分散エコシステムでは、独立したサブシステムの集合体によって個別で動きつつも協調が必要な時にだけ協調制御が行えるようなシステムである。そのためデータについても個別のデータスペースが必要に応じて連携できる仕組みの構築を目指している。「企業同士の契約に基づいて、正当性と信頼関係が証明された相手と必要な場合のみデータをやりとりできるような仕組みが求められている」と齊藤氏は語る。そのため、欧州では法規制の整備も進めており、データガバナンス法やデジタルマーケット法、デジタルサービス法、データ法などを次々に施行している。