むくれていた小笠原慎之介、心をほぐした菊池雄星から届いたメッセージ「これから大変だろうから、何かあったら連絡しておいで」
◇ドラ番「蔵出し秘話2024」=5= 自主トレからキャンプに公式戦…といかなる時も竜戦士を追い続けた本紙ドラ番記者6人による、とっておきの話「蔵出し秘話」。6回連載の第5回は川本光憲記者。小笠原慎之介投手(27)とのエピソードをつづります。 小笠原の放つ空気がいつもとどうも違った。あれは9月下旬。何にむくれているのか分からない。そんなときは、そっとしておくに限る。何か伝えたいことがあれば声を掛けてくるに違いないと割り切った。 へそを曲げる原因を想像して数日たったとき、左腕からLINE(ライン)のメッセージが届いた。その中で、米アストロズ菊池雄星(来季エンゼルス)から小笠原へ送られてきたメッセージの一部が紹介されていた。2人は数年前にテレビ局の企画で共演していたという。 「これから大変だろうから、何かあったら連絡しておいで、という内容でした」 あいさつに始まり、報道でメジャー挑戦を知ったこと、米国での再会を楽しみにしていることなどがつづられていたという。文面から小笠原の安堵(あんど)と喜びが伝わってきた。 人ってこういうものなのだろう。「何を」言われるかで心持ちが変わる場合もあれば、「誰に」言われるかが重要な局面もある。今回は後者だった。文面はありふれた先輩からのメッセージ。心に刺さったのは菊池からだったからなのだ。 ところで何に心を乱されたか。結論は環境の変化だと思っている。ちょうど、代理人事務所は大手のウィリアム・モリス・エンデバー(WME)だと紙面化したばかりのタイミングだった。報じるにあたり、もちろん左腕の許可を得ている。 一方で周囲の反応はさまざま。距離を測りかねる人や、近づいてくる人もいる。まだ成功していないにせよ、ねたみひがみの対象にだってなる。すべてが押し寄せて左腕の心はささくれ立った。 さかのぼれば、岩隈久志だって大塚晶文(中日の巡回投手・育成コーチ)だって契約不調で日本球界でプレー続行した過去を持つ。小笠原が来季ドラゴンズかメジャーか、未来は誰にも分からない。 時間をかけて竜に思いを伝えてポスティング申請の手続きをとり、堂々と挑戦の道を進む。それだけで十分ご立派。記者は「誰に」の対象にはなり得ない。求められたときにどんな態度を取り「何を」言えるか、研さんは続く。(川本光憲)
中日スポーツ