兵庫県知事選「PR会社」も「斎藤氏」も選挙を“ナメていた”? 「有償でもボランティアでもアウト」“選挙法務”専門弁護士が解説
B氏にとって「盛る」「嘘をつく」メリットは「何一つない」
斎藤氏の代理人弁護士は、11月27日の記者会見で、B氏のnoteでの記載について「盛っている」と表現している。A社の手柄・実績を過大にPRしようとした可能性は考えられないか。 三葛弁護士:「代理人弁護士はあくまでも斎藤氏の代理人であり、斎藤氏側からの一方的な言い分にすぎません。 B氏は『私自身も現場に出て撮影やライブ配信を行うこともありました』と記載しており、このこと自体はそれを示す第三者の撮影した画像により裏付けられます。また、note発表当時には、B氏には『盛る』ことのメリットは見当たりません。 今の時代、自身の手柄を『盛る』ようなことをすれば、すぐに指摘が入り、あっという間に拡散して炎上します。A社及びB氏としては、事実を淡々と記載するだけで大きなPRができたのであり、それで足りるでしょう。 また、斎藤氏陣営から『あれはB氏が盛ったものだ』などと言われてしまえば、せっかくのPRが台無しになるばかりか、“ウソつき”のレッテルすら貼られることになります。 事実、斎藤氏の弁護士の『盛っている』発言を受け、A社やB氏への疑問が高まっています」 なお、B氏が斎藤氏を陥れるために嘘をついている可能性も、考えにくいという。 三葛弁護士:「選挙後に、候補者と仲たがいをした者が、その候補者を貶(おとし)めるために『こんな違法行為をした』という真偽の定かでない暴露をするケースはあります。 しかし、今回、B氏がnoteを公開したのは、自身が応援していた斎藤氏が当選した直後で、斎藤氏側との関係が最も良好だったタイミングなので、斎藤氏を貶めるメリットも動機も何一つ考えつきません」
「71万5000円が適正な対価か」は“本質ではない”
そうすると、次に問題となるのは、斎藤氏がA社に支払ったとしている71万5000円が、A社の選挙に関する一連の業務(選挙運動)に対する「報酬」にあたるか否かである。もし報酬に該当すれば、前述のとおり「買収」が行われたことになる。 これに対し、斎藤氏は、71万5000円を「ポスターなどの制作費」として支払ったものと述べている(【図表】参照)。 兵庫県選挙管理委員会は12月3日、県知事選挙の候補者が提出した選挙運動の収支報告書を公表した。これによると、A社への支出と考えられるのは合計38万5000円、内訳は「チラシのデザインの制作費」16万5000円、「メインビジュアルの企画・制作」11万円、「ポスターデザイン制作」5万円5000円、「選挙公報のデザイン制作」5万5000円だった。 斎藤氏の代理人弁護士は、残りの33万5000円については、「公約のスライド制作費」であり政治活動費として処理したと説明している。 この点について、三葛弁護士は次のように分析する。 三葛弁護士:「71万5000円が『ポスターなどの制作費として適正な額だったか』が問題とされ、『社会通念にてらして判断されるべき』などと、この金額自体を巡る議論が多くなされています。 ただし、報酬の支払いについて当事者間でどのような契約があったかは明らかになっていません。71万5000円の支払いや役務の提供についても、斎藤氏側は『契約書は作成せず、口頭での契約』と主張しており、現時点ではそれを覆す材料は見られません。 しかし、この際『社会通念上妥当かどうか』はあまり関係がないとも言えます。 収支報告の内訳はいずれも、金額が一義的に決まるような性格のものではありません。営利企業としては、ときに営利を度外視して仕事を得るインセンティブ(行き過ぎるとダンピングになります)が働くことも踏まえると、その価格自体にはあまり意味がありません。 むしろ、A社およびB氏の主観として、この仕事を受けた上で『主体的・裁量的に選挙運動をしようとしたかどうか』という点を考えるべきです。選挙の仕事の多くはただ受けるだけでなく、選挙で勝利することを目指すこととなります。そして、A社およびB氏にとっては勝てば大きなアドバンテージとなり、それは『特別な名誉』から『特別の利益』へとつながり得ます。 そうなると、A社およびB氏の主観は『仕事を受けた上で、その仕事がもたらすアドバンテージを期待して、仕事に付加する“サービス”として選挙運動を行った』というものだと考えるのが合理的です。 A社およびB氏としては、71万5000円という中に『サービス』が含まれ、そして勝利が見えてきたことで『サービス』が膨らんでいき、社長自らが選挙運動に従事してしまうような状況になっていた、となると、もはや典型的な運動員買収といえます。 今後、お金の動きや、メールや文書のやりとりなどについて調査・捜査が行われ、詳細が明らかになるのを待つほかありません」