ポルシェ911の何がスゴイのか? 50年間変わらぬ「形」と「RR」
「RRの成せる必然」二重構造の補強
前述のように卵型は理想だ。しかしクルマの場合、それにタイヤがついてエンジンと路面で力のやり取りする。力が集中してかかる駆動輪の取り付け部には、卵の殻に割れ目を入れるような力がかかるのだ。割れないためには局部的に力が集中する部分を一段と丈夫にし、いったん力を分散させてから卵全体で引き受けなくてはならないのだ。 図1の左右後輪の間に挟まっているのは変速機とデファレンシャルだ。その直前、つまり駆動輪であるリアタイヤの前端あたりのところ、室内側から見るとリアシートの背もたれの背後にエンジンルーム隔壁がある。
図2を見ると解る様に、隔壁は床面から斜めにたちあがって階段状にタイヤの上までせり上がり、そこからエンジンの真上までカバーし、かつその全周で卵の外殻と結ばれている。構造的にはつっかい棒を面で張り巡らしたとも言えるし、リアタイヤ周辺だけ卵の殻が二重構造に補強されているとも言える。 これはもちろんエンジンルームとキャビンの間に壁を作ると、ちょうどそこが駆動輪の取り付け部になるというRRの成せる必然ではあるが、それに乗じて911は卵が割れない構造をより強固に構築している。911の駆動輪が路面との力のやり取りに優れている最大の秘密はこのリアサスペンション周辺の高い剛性確保にある。
優れた操作性導いたフロントデザイン
ここまでは剛性の話に終始したが、今度はサスペンションの話に移りたい。911と言えば誰もが思い描くデザインの特徴のひとつに、その丸いヘッドランプからピラーまで続くフェンダーの峰があるだろう。911の面構えを決める特徴だ。これはホイールトラベルを稼ぐためだ。と言う書き方では解る人にしかわからないので、以下でじっくり解説しよう。 サスペンションの役目は、第一義的にはタイヤを路面にしっかり押し付けておくことだ。乗り心地の確保はその次の話。タイヤを路面に押しつけるために、ばねとダンパーを硬くすればいいと思っているならそれは大きな誤解である。 例えば凸状の突起を乗り越えた時、サスペンションが硬いと頂上を過ぎたところでタイヤが浮いてしまう。タイヤが浮けば、クルマはドライバーの全ての操作を受け付けることができない。それは遠心力と慣性に全てを委ねてしまう危険な状態であり、非常にマズイのだ。 これを防ぐためには突き上げを柔らかくいなしながら、突き上げのピークを過ぎたらすぐに押し戻さなくてはならない。イメージ的に言えば「柔よく剛を制す」。キャッチボールで剛速球を捕る時にグローブを後ろに引きたくなる。後ろに引ける距離をクルマの世界ではホイールトラベルと言う。フロントタイヤでホイールトラベルを確保しようとすればタイヤの上方にタイヤが動ける空間が必要だ。その空間を作り出しているものこそあの峰のたったフェンダーなのだ。