【中国への対応はアジア版NATOではない】政権移行期を狙った中国の軍事行動、毅然かつ冷静に対峙する覚悟を
戦略とは相手の嫌がることを実行すること
今回、海自艦が通航した台湾海峡は、最も幅の狭い所でも約130キロメートルあり、海峡両岸の領海と接続水域を除いた海峡の中央部分は、紛れもなく国際法上の公海だ。海自艦に限らず各国の軍艦が日常的に航行したとしても何ら問題はない。いわゆる航行の自由だが、中国はここでも国際法を無視し、南シナ海と同様、台湾海峡には主権と管轄権があると主張する。 それほど航行されることを嫌がるのであれば、ロシアが北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を嫌がったように、中国に対しても、日米韓や日米豪印の関係を強固にすると同時に、英仏独など同志国を含めた多国間の演習など軍事活動を、南シナ海から台湾海峡、そして東シナ海を中心にインド太平洋地域で常態化させることが重要だ。戦略とは本来、相手の嫌がることを考え、実行することだからだ。
中露連携による“仕返し”に備えよ
海自艦の台湾海峡の通航は、中国に対し、初めて法に基づく国際秩序を強化するという日本の姿勢を示したものだ。だが同時に、これからは中国とロシアの軍事連携に基づく日本への報復、いわゆる仕返しに備えなければならない。 防衛省は領空侵犯したロシア軍哨戒機の航跡と中露海軍艦艇の行動を公開したが、それからは、中露による共同軍事演習のさなかに領空侵犯が発生し、宗谷海峡の周辺で水中に潜む海自潜水艦を想定し、対潜水艦戦を実施していたことが推測される。 ロシアがウクライナを侵略して以降、中国は孤立するロシアを支え、軍事連携を強化し続けてきた。とりわけ日本周辺海空域は顕著で、中露は核兵器が搭載可能な戦略爆撃機などによる共同飛行を繰り返しているほか、日本海では共同パトロールと称して中露の海軍艦艇が集結し、射撃訓練などを頻繁に行っている。 ロシアにとって、これらは日本がウクライナ侵略を理由にロシアに経済制裁を科したことへの報復でもあるが、すでに中露は互いの「核心的利益」を相互に支持する方針を確認しており、中露は今後、北方領土で共同演習を実施し、尖閣諸島に対する中国の領有権を支持することなどが想定される。 政府はこうした仕返しを念頭に、対抗手段を準備しておかなければならない。例えば、国家安全保障戦略に「領土・主権問題への理解を広げる取り組みを強化する」と明記したことに基づき、在京の各国大使館の大使や国防武官らを招き、尖閣警備にあたる海上保安庁の活動を視察する機会を設けることなどは、すぐにでもできるはずだ。