【中国への対応はアジア版NATOではない】政権移行期を狙った中国の軍事行動、毅然かつ冷静に対峙する覚悟を
軍事にとどまらない中国の脅威
日本に対する軍事的な威圧が続く一方で、中国・深圳市で9月18日、日本人学校に通う10歳の男児が中国人の男に刺殺される事件が発生した。しかも日本人が被害にあった襲撃事件はこれが初めてではなく、6月にも蘇州市で、スクールバスを待っていた日本人母子ら3人が刃物を持った中国人の男に襲われている。 事件が起きた9月18日は、満州事変の発端となった「柳条湖事件」(1931年)の起きた日で、中国では「国辱の日」に位置づけられており、反日感情との関係が指摘されている。だが、いずれの事件でも中国は「捜査中」、「偶発的な個別事案」などと述べるだけで、事件の全容を明らかにする姿勢を見せていない。 また、アステラス製薬の日本人社員がスパイ容疑で起訴、拘束されている事案でも、中国は具体的な起訴内容などは一切明らかにしていない。これでは中国に進出している企業の中に不安が広がるのは当然で、このままでは社員や社員の家族の命を危険にさらしてまで中国で仕事をしようとは思わなくなるだろう。 中国では6月、吉林市で米国人の大学教員4人が中国人の男に刃物で刺される事件も起きており、スパイ容疑での身柄拘束は欧米企業の社員にも及んでいるという。 隠蔽体質の中国と向き合うには、日本一国だけでなく欧米など多くの被害国が一緒になって中国と交渉しなければならない。11月中旬にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議がペルーで開かれ、その直後にブラジルで主要20カ国(G20)サミットが始まる。両会議には中国の習近平国家主席が出席するとみられ、政府は相次ぐ外国人殺傷問題とスパイ容疑での拘束問題について、多国間(マルチ)の枠組みで中国を追及し、説明を求める準備を急ぐ必要がある。
今はアジア版NATOではない
戦後最悪ともいえる日中関係の中で「石破丸」は船出する。総裁選で石破氏は「アジア版NATO」の創設構想を掲げている。中国を念頭に集団防衛体制を目指す目的だと思うが、現時点で中国を抑止できる最適な枠組みは、日米豪印(QUAD・クアッド)であり、そこに韓国をはじめ英仏独やイタリア、カナダなどの同志国が連携協力してインド太平洋地域の平和と安全を高めることだ。 日本にとって最大の脅威は中国だが、中国はロシアと連携を強化し、そのロシアは北朝鮮と連携するなど、日本は中国とロシア、北朝鮮という核武装した専制独裁国家と向き合っている。しかも台湾有事が現実味を帯びる中で、中国がICBMを発射させ、米本土を攻撃できる能力を誇示するなど複雑かつ厳しい安全保障環境の中で、これからアジア版NATOを創設しようとする優先順位は高くはない。