中国・反スパイ法施行から10年…今も帰国できない日本人も「このままでは誰も中国に行かなくなる…」
「恣意的な判断」による懸念
中国で日系の大手企業に勤務する日本人男性は、反スパイ法がビジネスに与える影響について懸念を示す。 ――現在、中国でどのようなビジネスをしていますか? 市場の変化に適切に対応できるよう、我々の仕事の一つに中国における販売状況や景況感を日本に正確に報告しなければならないというのがあります。その景況感を調べる中では中国の色々な方にお話を伺います。具体的には中国の有名な企業のCEOの方と話をして、今の中国を理解する貴重な情報をもらう時もあります。しかし、昔であれば問題なかったと思うことも反スパイ法が出来てからは、果たしてこれは“機密”にあたらないのか、この話を日本側に伝えていいのかと思うようになりました。企業の方が大丈夫と思って話された情報が、当局の恣意的な判断によって拘束されてしまうというリスクが現在はあると思っています。 ――中国で働くことは他の国よりも難しい? ビジネスという点ではどの国よりもスピードが速く、技術、個人のスキルが一番成長できる国だと思っています。一方でこの反スパイ法を始めとする環境が、心理的なプレッシャーとなっているのは事実だと思います。 ――反スパイ法は日中間のビジネスに影響を与えている? ビジネスの基本は人対人なので、例えば一緒に食事をしたりお酒を飲んだりして関係性を築くというのは大事でこれは今後も変わらないと思います。ただその中でこれまでは踏み込んで聞けていた情報というのが、後から当局に指摘されてしまうことのリスクを意識するようになりました。 ――日本人が拘束されていることについてどう思う? 日本人が拘束されているというのは、中国で働いている私たち日本人にとって心理的な障壁になっています。私たちが気を付けることは、ビジネスのパートナーとして仕事をする中国企業がどういう会社なのか、国営企業なのかそうでないのか、会社のオーナーはどういう人物なのか、例えば軍人出身ではないのか、そういうことをしっかりと調べた上でお付き合いを進めていくということが大事になります。 ――ビジネス上で困惑した話などはありますか? 聞いた話として、今になって昔の税金の支払いが徴収されているというのがありました。その時に問題なく会計処理されていたものが、今になって5年前、10年前の税金を払って下さいと突然通知が来て徴収されるという話です。これは非常に怖い話で、当時は問題なかった関係性や話した内容が今になって問題とされ、ある日突然拘束されるということに繋がるのではと危惧してしまいます。また、中国での任務を終えて日本に帰ったビジネスマンが数年経ち、再び中国にやって来た際に拘束されてしまうのではという怖さもあります。一方、中国にいる以上はここで利益を出さなければならないので、不必要に委縮するのではなく「正しく恐れる」という姿勢でビジネスをやっていきたいと思っています。