伊藤みどりがフィギュア男子の推しに「もっと爆走してほしい」 バックフリップ解禁についての見解も示す
【同門の山本君、友野君も国際大会で食い込める】 また私と同じ山田満知子先生の門下生として頑張っているのが、山本草太君。よくぞケガから立ち直り、ここまで伸びてきたなと感動しています。今回のスケートカナダも、僅差で4位となり惜しい試合でした。4回転トーループもサルコウも決まり、力は十分に伸びてきています。 フリーの『Melting』はローリー・ニコルさんの振り付けで、彼の美しさが引き出されていますね。演技もジャンプもトップレベルなので、気持ちの強さがあとひとつ加われば、若手3人に食い込んでいけるでしょう。 また友野一希君もコツコツと頑張ってきて、少しずつ実績を積み重ねてきた選手。スポンサーもついて、社会人として腰を据えて活動できる状況になってきていますね。チャンスに恵まれたからこそ、これまで苦労してきた経験を活かして、頑張ってほしいです。4回転2種類をしっかりと降りる力もありますし、演技力、スケーティングすべてが円熟期。自分の力を発揮できれば、十分に国際大会で活躍するチャンスがあります。 NHK杯には、鍵山君、三浦君とともに壷井達也君が出場します。神戸大学に通い文武両道で頑張っていて、人間的にも尊敬できる選手です。NHK杯で力を発揮して、世界に名前を覚えてもらえる選手に育ってほしいです。
【誰もがケガなく五輪を目指せるように】 男子は4回転ジャンパーが続々と育ち、ハイレベルな時代を迎えています。世界王者のイリア・マリニンさん(アメリカ)は、4種類、5種類もの4回転を次々と決め、才能もスタミナもすごいです。 アクセルの跳び方は私と違い、あまりスピードを出さずに真上に踏みきるタイプで、今の時代の選手という印象ですね。マリニンさんは、すでに全種類の4回転を成功させていて、今季は滑りの美しさや表現力を身につけることに集中している様子。昨季に比べて凝ったプログラムに挑戦し、向上心の耐えない選手です。 最強とも言えるマリニンさんをいかに超えていくか、日本男子は戦略が問われています。4回転ジャンプ1~2本分の差を、どうやって埋め、超えていくか。やはりスケーティング技術や演技力がカギになっていくでしょう。鍵山君は滑りとジャンプの安定感、佐藤君は美しいジャンプ、三浦君はパワフルさで、自分の個性をそれぞれ追求しています。 個人的に気になっているのは、ルール変更で解禁されたバックフリップ(宙返り)。本当に必要なのかな、と思っています。私の時代はスルヤ・ボナリーさんがやっていましたが、ジャンプより飛距離があるぶん、公式練習のときに近くで練習されると逃げられません。 また選手本人にとっても、演技中の疲れているときに跳ぶのは、負担が大きいでしょう。誰かがケガしてからでは遅い。アダム・シャオ イム ファさん(フランス)やマリニンさんほどの才能ある選手がケガをするのは見たくないですし、私はこわごわとした思いです。 いずれにしても、ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に向けて、男子は高難度の4回転を何本も入れ、さらに芸術性も求められる、とても大変な時代です。ケガのリスクが大きい技がいくつもあるので、すべての選手がケガなく、自分の力を発揮しながら五輪を目指していけることを願ってやみません。 女子シングル編を読む>> 【プロフィール】伊藤みどり いとう・みどり 1969年、愛知県生まれ。6歳からフィギュアスケートの競技会への参加を開始し、小学4年の時、全日本ジュニア選手権で優勝し、シニアの全日本選手権で3位。1985年の全日本選手権で初優勝し、以後8連覇。1988年カルガリー五輪で5位入賞。同年には女子選手として初めてトリプルアクセルを成功させる。1989年、世界選手権で日本人初の金メダルを獲得。1992年アルベールビル五輪で銀メダルを獲得後、プロスケーターに転向。その後、アマチュアに復帰し1996年の全日本選手権で9回目の優勝を果たしたのち引退。現在は指導や普及に努めながら、国際アダルト・フィギュアスケート選手権にも出場し部門別優勝も果たしている。
野口美恵●取材・文 text by Noguchi Yoshie