トランプ大統領にもリスク? 2回目の米朝会談のポイントは
「非核化の実行と検証」のプロセスに入れるか
今回の首脳会談では、具体的には、「すべての核と核関連施設」を両国間交渉の俎上に載せ、「非核化の実行と検証」のプロセスに進むことができるかが焦点となります。
このプロセスは、検証チームに対して北朝鮮政府が「申告」することから始められます。「検証のための申告」です。その中には、核兵器が何発、どこに保存されているか、その廃棄がどのように実行されるかが、まず示されなければなりません。北朝鮮がそのような申告を行う決意を固めたか、現段階では不明と言うほかありませんが、それができなければ「完全な非核化」はあり得ません。それが米国の認識だと思います。 過去にいったん核兵器を保有したが、後に「非核化」したケースが世界中に一つだけあります。南アフリカであり、その経験があるので北朝鮮が本当に「非核化」を決意した場合、物事がどのように進むか、見当がつくのです。
「体制保証」と「朝鮮戦争終結宣言」は?
一方、金委員長としては見返りが必要でしょう。米国が北朝鮮を「正規の国家」として承認することが最大の見返りです。以前、北朝鮮は「体制保証」を求めるとも言われましたが、それは不可能です。「体制保証」はもはや問題になりません。 安全保障面では、在韓米軍の撤退など一部の問題への注目が集まりつつありますが、シンガポールでの首脳会談では、「米朝双方が協力して朝鮮半島に恒久的な平和体制を樹立する」ことが決定されており、これが実現すれば北朝鮮の安全保障は基本的に確保されることになります。つまり、北朝鮮にとって安全保障上の最大の脅威は米国であり、恒久的平和体制が確立されることにより、米国に攻撃される恐れがなくなるわけです。 北朝鮮が「制裁措置の緩和」を強く求めていることは確かです。しかし米国は、「非核化」が実際に進展するまでそれに応じないことも確かです。前述したように、「検証を前提とする完全な非核化」が必要というのが米国の考えだからです。第2回目の米朝会談において「制裁措置の緩和」は金委員長から提起される可能性がありますが、トランプ大統領が応じることはないと思います。 一部には「相応の措置」、つまり北朝鮮側の努力に相応して米国も制裁の緩和に踏み切るのではないかと見る向きもありますが、米国は「相応の措置」に合意したことはなく、北朝鮮側の一方的な期待に過ぎません。 「朝鮮戦争終結宣言」についても、米国はこれまで一貫して拒否の姿勢を取ってきました。韓国から繰り返し妥協を勧められても取り付く島さえなかったようです。 しかし戦争終結宣言は、法的効果のない政治的な行為であり、突き詰めて考えれば、米国としてもこの宣言を行うことに絶対的な困難はなく、トランプ大統領が会談を成功させるために何らかの妥協に応じる可能性は排除できません。 総じて第1回目の会談は、両首脳が会うだけで大きな進展でしたが、今回はそういうわけにはいきません。それ相応の成果が求められるわけで、それだけにどのような結果になるかが注目されます。
----------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹