軍事侵攻1000日、ウクライナの子どもたち「早く普通の生活に」「パパ帰ってきて」14人の手記出版
11月19日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始から1000日が経過した。 ■1000日で2400人あまりの子どもたちが死傷 ウクライナ・戦時下の子どもたちは今… ユニセフ(UNICEF・国連児童基金)によると、この1000日間で、659人が亡くなり1747人が負傷した。 毎週、少なくとも16人の子どもが命を落としたり負傷したりしていることになる。 「日本でこうした現状は、ほとんど知られていない。1000日も経つと“意識の風化”が進んでいるのではないか」と危惧するのは、日本ウクライナ文化交流協会(大阪府八尾市)会長・小野元裕さん。 小野さんは、『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』などで知られる文豪・ドストエフスキーに関心があり、大学でロシア文学を学ぶうち、ウクライナとロシアの歴史的な関わりの深さを知った。 その後、2005年に協会を立ち上げ、日本とウクライナの文化交流に取り組んでいたが、ロシアによる軍事侵攻が始まった2022年2月24日以降、西ウクライナに避難所を開設したり、現地の避難民に向けてカイロを届けるなどしてきた。 ■「夢も希望もなく、勉強しても仕方ない」この言葉に心揺さぶられ… 今年(2024年)9月、首都キーウ近くに住む協会のアドバイザー、アンドリー・ブチネフさんから、14歳の長女・ヴェダナさんが「私たちは明日、爆撃を受けて死ぬかもしれない。そんな中、一生懸命に勉強しても意味がない」とつぶやいたという話を聞いた。 小野さんは「このままではいけない。将来ある子どもたちの夢や希望が失われてしまう」と心が揺さぶられた。そして10月上旬、ウクライナで戦禍におびえる子どもたちの手記を募り、ひとつの本にまとめる活動を始めた。 ■戦禍と向き合うことにためらう子どもたち しかし、ウクライナでは多くの人が避難民として国内外に逃れたり、“戦禍と向き合う”経験を書くことにためらいを隠せない子どもが多く、編さんは思うように進まなかった。 それでも小野さんはあきらめず、ウクライナ国内の知人らの協力で、5~14歳の14人分の手記を集めた。幼い子には母親が聞き取り、文字にした。 こうして、ブックレット「戦時下の子どもたち ロシアによるウクライナ全面侵攻 1000日」が11月19日に出版された。 原文と日本語訳を併記し、読みやすいスタイルにした。ブックレットという小型書籍としたのも、読みやすさを追求したからだ。 ■生活の一部になってしまった軍事侵攻、「パバが帰ってこなくなるかも」 キーウ市に住むスヴェトスラフ君(7)は、「戦争(軍事侵攻)は僕たちの生活の一部」と綴る。 父親が軍事侵攻開始直後に出征し、別れを告げる時間もなかった。しばらくして母親から父親が負傷したと聞き、見舞いに行くと、父親はベッドに横たわっていた。疲れきった様子で、抱きしめたかったが、傷つけるのが怖かったと振り返る。 隣には腕や足がない負傷兵が横たわっていたが、恐怖を表に出さないようにしたという。 そして、軍事侵攻の長期化を憂い、「いつかパパが帰ってこなくなるかもしれないという恐怖の重荷を心に感じている」と胸の内を記した。 ■普通の生活に戻れたら…軍事侵攻は、単純なことのありがたさを教えてくれた ヴェダナさんは軍事侵攻以降、学校はオンライン授業になり、友達と会えなくなった。 「普通の生活に戻れたら、どんなにいいだろうか」。想像しながら、枕に顔をうずめて泣いたという。 そして、「温かいハグや、友達と笑った思い出など、単純なことなありがたさを教えてくれた」という。 「1000日間の戦争は、私にとって本当の試練だった。強くなることを学び、幸せな瞬間に感謝することを学んだ」と話し、「再び不安なく暮らせるようになることを願っている」と綴り、支え合う尊さを語っている。 ■サイレンが鳴ると、シェルターに逃げ込むの 食事もなく、横になったまま ドニプロペトロウシク州・クリヴィー リフ市に住むポリーナちゃん(5)は、軍事侵攻が始まった時のことは覚えていない。 「ずっと戦争は続いていたんでしょう?」。素朴な疑問を投げかける。 「なぜ、あんなに大きなロシアが、こんなに小さなウクライナを攻撃したのかわからない。サイレンが鳴ると、すぐに(シェルターに)逃げ込むの。食事もなく、横になったまま」と、日常生活の苦悩を訴える。 ブックレット「戦時下の子どもたち ロシアによるウクライナ全面侵攻 1000日」は550円(税込)。 【問い合わせ先】 日本ウクライナ文化交流協会 TEL 072-926-5134
ラジオ関西