「世界で最も移民が死ぬ陸路」命の危険を冒してアメリカへの国境を越える移民たち 大統領選の争点「世界の難民危機」【混沌の超大国2024 アメリカ大統領選②】
移民大国アメリカに異変が起きている。米南西部での越境は、メキシコからの出稼ぎ労働者が長年多かったが、2022年以降、中南米全体やアフリカ、アジアなど世界各地から人々が押し寄せる“地球規模化”の傾向が鮮明に。生命の危険をおかしてまでなぜ米国への長旅に足を踏み出すのか。移民が殺到する国境の街を訪ねた。(共同通信ワシントン支局 金友久美子) 【写真】米国とメキシコの国境沿いを流れるリオグランデ川 溺死した移民の親子が見つかった現場付近 19年
※アメリカ大統領選は記者が音声「共同通信Podcast」でも解説しています。 ▽国境沿いの小さなシェルター 「過去1年ほどで中南米やアフリカ、欧州、アジアなどから45カ国の9千人を受け入れた」 氷点下近くに冷え込んだ昨年12月27日夜。米南部テキサス州エルパソのメキシコ国境沿いにある住宅街の一角に、カソリック系の移民支援施設「ホーリー・ファミリー・シェルター」はぽつんと建っていた。小さな体育館ほどの室内には簡易ベッドが並べられ、40人ほどが休息をとったり、ボランティアの地元住民らと雑談したりしている。20~40代の家族連れが多く、幼い子どもの姿も目立つ。 施設を運営し移民を支援する神父のヤロスワフ・ウィソツァンスキさん(62)は「米国に近い地域だけでなく、地球の裏側から海やジャングルを越えてやってくる」と話す。いずれもビザを持たず、徒歩で越境した人々だ。合法的な滞在資格を持つ外国人と区別して「不法移民」「書類のない移民」「許可されていない移民」などと呼ばれる。国境で米警備当局に拘束された後、一時的な保護措置として提携する施設に送られ、滞在している。
▽過去最多の摘発数。出身国の内訳に異変 メキシコやグアテマラ、ホンジュラス、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル…。アメリカ大陸へ命がけで北上する人々の多くは中南米出身者だが、このシェルターでは前日にアンゴラ人を受け入れるなど、アフリカ出身者も珍しくない。戦火を逃れたウクライナ人やロシア人ら東欧出身者のほか、インドやパキスタンなどアジアからも中南米の国々を経由してやってくるという。 統計データも“異変”を裏付ける。南西部で米国境警備当局が身柄を確保した件数は2021年度の173万件から2022年度は239万件に急増。この件数には同一人物が複数回越境し、検挙されているケースも含まれるが、2023年度は248万件と過去最多を更新した。 内訳をみると、2021年度には隣国メキシコと、その南側の中南米の北部三角地帯と呼ばれるグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの3カ国からの越境が8割程度を占めていた。しかし、2022年度になるとベネズエラやキューバ、ニカラグアからの越境数が北部三角地帯を逆転。メキシコや北部三角地帯といった「従来地域」以外からの地域からの流入は2021年度の2割から2023年度には5割と急拡大し、メキシコなどを逆転するに至った。