「世界で最も移民が死ぬ陸路」命の危険を冒してアメリカへの国境を越える移民たち 大統領選の争点「世界の難民危機」【混沌の超大国2024 アメリカ大統領選②】
▽「食べ物もなく泣きながら歩き続けた」 何千キロに及ぶ道中は過酷だ。ベネズエラから夫や2人の子どもとともにやってきたアレハンドラ・メリーナさん(28)は「食べ物も何もなく、1週間泣きながら歩き続けたときもあった」と話す。 ロイター通信によると、コロンビアとパナマの間の危険なジャングルを渡った移民は2023年に過去最高の52万人に達し、前年の2倍以上となった。その後、多くの場合は、メキシコ南部から北部まで貨物列車に乗り、メキシコと米国の国境沿いを流れるリオグランデ川や砂漠地帯を徒歩で渡ってエルパソなど国境の街にたどり着く。けがや溺死、熱中症といった危険は数えきれず、暴力組織に誘拐されるケースも目立つ。国際移住機関(IOM)は米メキシコ間の国境が「世界中で最も移民が死ぬ陸路」と指摘する。 ▽政府の抑圧や賄賂要求「いつかは故郷に帰りたいが…」 それでも人々はやってくる。 「政府の抑圧がひどく、避難できる場所を探してここまでやってきた」。ベネズエラ西部バルキシメト出身のジェベル・チェリッチさん(39)は昨年10月3日に、妻ロサーナさん(29)や息子マティアスさん(5)らと故郷を出発。パナマやコスタリカ、メキシコなど数カ国を北上し、3カ月かけてエルパソにたどり着いた。「子どもの未来のためにこの道を選んだが、いつかは政府を変えて国に戻りたい」とも話す。 エルサルバドル出身のエスメラルダ・アントニオさん(43)は「地元ではギャングがかつて活動していた地域に住んでいるというだけで刑務所に入れられそうになった」と明かす。「金を支払えば刑務所に送らないと言われたがそんなお金は手元にない。公正な司法手続きもなければ、弁護してくれる人もいない」。自身は妻子とともに米国へと逃れたが、母親は今も刑務所に入れられているという。
▽世界の難民人口は7年で2倍に急増。受け入れ国が危機国に変貌 超党派の米シンクタンク移民政策研究所は近年の移民急増が「各国の政情不安に加えて、新型コロナウイルス禍からの経済回復の遅れや、暴力のまん延、気候変動の影響によって新たな“常態”になっている」と分析する。 実際に話を聞いた印象も、迫害などを理由に出身国を逃れた「難民」と呼ぶべきと思われる人が少なくなかった。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、世界の難民人口は紛争や迫害により過去7年で2倍に増え、2023年半ばには3640万人に達した。深刻化する難民危機が出身国から周辺国へ、さらに周辺国から労働需要のある米国などへの移動を促している。 象徴的な難民危機国がベネズエラだ。石油資源に恵まれるベネズエラは以前は周辺各国からの「難民受け入れ国」だった。しかし、政情不安や経済の混乱、治安の悪化によって国内外へ770万人が避難する事態に陥り、いまや中南米最大の難民危機国となった。