FRBのパウエル議長の記者会見-Potential impacts
金融政策の運営
今回のFOMCは、FFレートの誘導目標を従来の4.75~5%から4.5~4.75%へと25bp引き下げた。 パウエル議長は、政策金利の調整(recalibrate)によって、労働市場や経済活動の強さを維持しつつ、インフレの目標への収斂を達成できるとの考えを確認した。併せて、dual mandateの達成に向けたリスクは概ねバランスしているとの評価を維持した。 その上で、パウエル議長は、迅速すぎる利下げがインフレに与える影響と遅すぎる利下げが経済や雇用に与える影響の双方を意識している点を確認し、今後も、経済指標や経済と物価の見通しの推移、リスクバランスをもとに政策運営を各会合で議論して決定する方針を確認した。 質疑応答では、多くの記者が大統領選挙後に米国債利回りが上昇した点について、その理由や影響について質した。 パウエル議長は、1年前より米国債利回りが高い点を確認した上で、金融政策は緩和方向でインフレも減速していると指摘し、経済見通しの好転が関係している可能性を指摘した。その上で、新政権の財政運営にはコメントしないとし、財政運営が具体化すれば経済見通しへの影響を考慮するが、実際に影響が発現するには、法制面の対応等のために時間を要すると説明した。 また、別の記者は、ボルカー議長やグリーンスパン議長のように、 FRBとして財政拡張に対してより明確な懸念を示すべきと指摘した。これに対し、パウエル議長は、FRBとしては従来と同様に財政は長い目で見て持続的でないと考えていると説明した。 さらに、先にみた声明文の修正は、新政権による経済政策の不確実性を意識したものかとの問いに対しては、パウエル議長はこれを否定し、経済や物価には多様なリスクが残ると説明した。 一方で、別の複数の記者は、景気が強い点やコアインフレが高止まっている点を挙げて、利下げの継続の合理性に疑問を示した。パウエル議長は、現時点で金融政策はなお引締め的である点を確認し、インフレ目標の達成にむけて労働市場の更なる減速は不要との考えを確認した。 これらの点を踏まえ、次回(12月)のFOMCについてパウエル議長は、大統領選挙の結果は短期的には影響を与えないとの考えを強調した。その上で、経済活動が強くインフレが減速するという好条件の下にあることを認めつつ、今後も経済指標や経済と物価の見通しの推移、リスクバランスを検討して新たな見通しSEPを策定するとして、政策決定の具体的な言及を避けた。 もっとも、中立金利に向けた金融引締めの調整を行う方針には変わりがないことを確認したほか、中立水準への到達を急ぐ必要はなく、かつ中立水準に接近する際には政策金利の変更度合いを、量的引締めの運営と同じく調整(減速)することを検討し始めていると説明した。 井上哲也(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 チーフシニア研究員) --- この記事は、NRIウェブサイトの【井上哲也のReview on Central Banking】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
井上 哲也