〈目撃〉クローンの「兵隊」をつくって敵を攻撃、ヒトに感染する寄生虫の吸虫で初めて確認
どう対抗するのか
メッツ氏は、この巻貝と吸虫についてより詳しく調べれば、その害をうまく無効化できるようになると期待しているが、そうした面から見ると、今回の研究はあまり良いニュースとは言えない。というのも、吸虫と戦う方法のひとつは「生物的防除」、すなわち、人間に感染しない吸虫を対抗させるというものだからだ。 「人間に感染する吸虫をすでにもっている巻貝に別の吸虫を感染させれば、その2つの種が巻貝の体内で争うことになります」とメッツ氏は言う。 つまり、敵の敵を味方にするという作戦だ。 しかし、H・プミリオが兵隊階級を有しているのであれば、彼らは吸虫として最も恐るべき種である可能性が出てくる。人間が彼らに対抗する手段は限られるかもしれない。 抑制したい種よりも優勢な種を見つけられない場合、生物的防御はうまく機能しないと、メッツ氏は言う。 さらに悪いことに、論文の共著者のライアン・ヘヒンガー氏が、H・プミリオの兵隊たちを同種の別コロニーに対する「攻撃試験」に差し向けたところ、彼らは完全に停戦状態に入ってしまった。別種の吸虫のそばに置いたときには、同じ兵隊たちが非常に攻撃的になることから、これは同じ宿主の体内にいるH・プミリオのコロニー同士は互いに競い合わないことを示唆している。 より恐ろしいのは、彼らが実は協力している可能性だ。 この現象は、侵略的なアルゼンチンアリが、何百万匹もの女王アリと何十億匹もの働きアリで構成されるスーパーコロニーを作る例と非常によく似ている。そしてそれは、H・プミリオがこれほどの成功を収めている理由を示唆しているのかもしれない。 科学者らは、「議論や意見の食い違い」がある中、約15年間にわたって吸虫における兵隊階級の存在を証明する努力を続けてきたと、ニュージーランド、オタゴ大学の寄生虫学者ロバート・プーリン氏は言う。そして今回、新たな研究により、少なくともH・プミリオに兵隊階級が存在する「今までで最も明確な証拠」が示された。 「自然選択では、多くのコロニー生物において、適応度を最大化する最善の方法として分業が選ばれてきました。これまでは、アリ、ハチ、シロアリといった社会性昆虫がよい例でした」とプーリン氏は言う。 「この最新の研究は、分業が吸虫でも独自に進化したことを明確に示しています」
文=Jason Bittel/訳=北村京子