日経平均最高値は「真のバブル超え」か?“中進国”への転落なのか...キーフレーズとなるインフレとスタグフレーション
7月に入り、日経平均株価指数が連日史上最高値を更新している。バブル超えを達成し、史上初の4万円台到達などに沸いた2月末から3月初旬とは異なり、今回はプライム市場を中心とした上場企業の全体的な値動きを反映するTOPIX(東証株価指数)も1989年12月以来、約34年半ぶりに史上最高値を塗り替えており、「正真正銘のバブル超え」というフレーズがそこかしこに見られている。 【図表】世界の株価指数上昇率トップ10 日本株の上昇に関し、2月末の本コラム「唐鎌大輔の経済情勢を読む視点」への寄稿では「【日経平均株価】34年ぶり更新をどう読めばいいか知りたい人へ 日本のGDPが不調でも最高値更新した理由」と題し、筆者なりの見解を示した。詳しくは同記事をご参照頂きたいが、当時の筆者は日本における株高は実体経済を前向きに評価した結果というよりも、むしろデフレからインフレへの切り替わりに伴って起きている必然の帰結であり、ややもすれば、制御不能の通貨安と高インフレに悩んでいる新興国の症状を彷彿とさせると論じた。 もちろん、日本を新興国と形容するのは性急だが、先進国と新興国の間に位置する「中進国」という国グループに転落しかけている容疑などは完全には否めない。こうした基本認識は今も不変である。
通貨安とセットで評価したい株高
3月時点では日経平均株価が史上初の4万円台に到達した3月4日時点における過去12カ月間に関し、株価指数の上昇率トップ10を並べて国際比較した。その際は首位のアルゼンチンを筆頭に高インフレと通貨安に悩む新興国がずらりと並び、10位に日本が滑り込んでくるという相応にショッキングな絵図が確認された。 今回は今次円安局面の始まった2022年3月を起点として24年7月9日時点までのパフォーマンスを比較してみた(図表(1))。株価上昇率に関し、首位のアルゼンチンは変わらずで、これにトルコやエジプト、アフリカや中東欧など、やはり新興国グループに属する国々が続いている。 この中で日経平均株価は15位、TOPIXは17位に入っており、やはり明らかに異質である。通貨下落率を見ても、アルゼンチンやトルコと比べればまだ抑制されているが、それ以外の国々と比べれば見れば遜色ない幅と言える。 唯一、日本より上位に位置し、先進国グループに属する国としてデンマークがあり、株価上昇率では13位に位置している。しかし、同国は欧州時価総額首位の製薬大手企業を擁し、21年6月には同社の開発した肥満症治療薬がアメリカ食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)の承認を得たことも話題となった。OMXコペンハーゲン20指数で最大のウェイトを有するのが同企業である。 何より表中の通貨変動率を見ても分かる通り、ユーロや一部の管理通貨(カザフスタン・テンゲ)を除けば、デンマーククローネは明らかに安定しており、同国が欧州連合(EU)でもインフレ率の安定した国として知られることを思えば、OMXコペンハーゲン20指数の上昇は周囲の国々とはまた違った目線で評価すべきであろうことは察しが付く。 このほかトップ30まで拡げれば25位にイタリア、27位に台湾、28位にスペイン、29位にドイツ、31位にオランダなど先進国グループと呼べそうな国々も入ってくる。ちなみに33位は米国(S&P500指数)だ。 これらの国・地域について対象期間で言えば、ユーロは▲2.8%、台湾ドルは▲13.9%であった。世界的に地政学リスクの高まりが意識される中、台湾ドルの下落幅は非常に大きいが、それでも円の下落幅の半分以下だ。株価上昇率と通貨下落率のバランスを見る限り、日本について自信を持って「先進国グループの一員」と言うにはやや躊躇する面もある。