アマゾンのCMで注目 偉大な父をもつ、実力派俳優・北村有起哉の成長と葛藤
「ジャッキー役は、クラスでひとりバク転ができるやつがいたから、そいつにやってもらいました。師匠のほうがおいしい役だってこともわかっていたんですよ。高3のときにやった『仁義なき戦い』も、主役の菅原文太さん役はちょっとかっこいいやつにやらせて、ぼくは金子信雄さんが演じていた、だらしない組長役で。それがすごく評判がよくて、(舞台の上には)『何かある』という手応えを感じたんです。クラスメートの女の子から4人も言い寄られたんです」 告白してきた女の子のうち「いちばんかわいい子」と付き合ったが、1週間でふられた。文化祭効果はすぐなくなったと笑う。 高3で俳優になることを決意。しかし北村さんの身近には、普通の高校生にはない大きな存在がいた。 「その文化祭で、『これってもしかして、おやじもやっている仕事なのかな』と気づくんです」
戦後の演劇界をけん引した父
父は昭和の名優とうたわれた北村和夫(2007年死去)。戦後の演劇界を牽引した文学座に所属し、同座の看板である杉村春子の相手役に若くして抜擢されて人気を博した。映画は「黒い雨」など多数出演し、NHK「おしん」「太閤記」といったテレビドラマでも活躍した。 「うちは放任主義だったので、『お前も何か出てみるか?』と誘われたことは一切なかった。学校でも(父のことは)話題にならなかったですね。友だちに『お前の父ちゃん俳優なんだって?』と聞かれて仕方なく名前を言っても、『知らねえな』という反応でした。たまに先生に『有起哉の父ちゃん昨日テレビに出てたな』と言われるぐらい。ぼくはそういう会話は嫌いでした。父に関する話はあまりしたくなかった。それはおやじの話であって、ぼくのじゃないですから」 それまで無関心だった父の仕事を、自分が俳優に興味をもってはじめて意識した。 「俳優になろうと思ったとき、父のことを調べたんですよ。でも、調べれば調べるほど、役者としての父の存在がどんどんのしかかってくる感覚になりました。はっきり言って、絶望に近いものがありましたね。『おれ、そんな十字架あったんだ』という思いになりました」