仏大統領選の有力候補に浮上した39歳 マクロン前経済相とは何者か?
「右でも左でもない」路線を標榜
マクロン氏が結成した政治運動「前進(En Marche!=アン・マルシュ)」とは、「左派と右派のいい部分を集め、どちらかの側にとらわれない新しい政治を行う」ことを目指す。ルペン氏の国民戦線のような移民排斥とは真逆の多様性を認める社会を重要視し、先月発表した公約の中では親EUであることをはっきりと明言している。しかし、経済大臣時代には投資や技術革新を実行するためには規制緩和が不可欠として、グローバル主義者の一面ものぞかせている。 運動名の「前進」は、「marche」が動詞になった形で、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」にも登場する言葉だ。シンプルかつポジティブな言葉を政治運動の名前に使う手法は、20年以上前にイタリアでシルビオ・ベルルスコーニ氏が「フォルツァ・イタリア(Forza Italia=頑張れイタリア)」という政党を作ったことが記憶に新しい。 マクロン氏とルペン氏が決選投票で一騎打ちとなる可能性が高まって大統領選挙だが、選択肢が事実上この2人に絞られることに幻滅を隠せない有権者も少なくない。 3月にフランスの複数のメディアが発表した世論調査では、最大で35%程度の有権者が4月23日の投票を棄権するつもりだと答えており、前回選挙の投票棄権率(約20%)をはるかに上回る数字となっている。マクロン氏の政治信条は、時に新自由主義的であり、時に社会主義的でもあり、これが「右にも左にとらわれないマクロン流」として有権者から支持を得ている。 しかし、同時に新自由主義によってフランス国内の格差が拡大することを懸念する声も存在し、ルペン反対派の中にもマクロンを支持しかねるという有権者は多い。選挙を前にしてフランスの有権者は究極の二択というジレンマに直面している。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト