“青森の星”ハヤテノフクノスケの挑戦 新人記者が生産者への取材で感じた思い
菊花賞に2016年のミライへノツバサ以来、青森産馬として8年ぶりに出走したハヤテノフクノスケ(牡3歳、栗東・中村直也厩舎、父ウインバリアシオン)。出入りの激しい厳しい展開のなか、最後まで力強く脚を伸ばし、ひと桁着順の8着に健闘した。 牧場にいた頃の話を聞くため、レース4日前の10月16日に、生産者・ワールドファームの村上薫さん(75)に電話で取材をさせてもらった。私にとってこれが生産者に話を聞く初めての機会。緊張しながら電話をかけたが、出張中にも関わらず時間をとって質問ひとつひとつに丁寧に答えてくれた。話を聞きながら伝わってきたのは、村上さんの馬への愛情と青森の馬産再興への思いだ。フクノスケの当時の様子について尋ねると、懐かしそうに話してくれた。「おとなしい感じの馬でした。そんなに体も大きくないし、脚が長いスラっとした馬でした。1歳になってからはスイッチが入ると聞かないところがあった。気難しいわけではないけど、すごく聞かん気があったね。1歳になるころから背がぐんぐん伸びて、春先には素晴らしい馬になりましたよ。もしかして走るんじゃないかなと思っていましたね」。そう語る村上さんの愛がこもった口調は、故郷を離れた息子を思いやる父親のようだった。ホースマンが愛馬に込める想いの一端を垣間見た気がした。 かつて青森は1947年から1962年にかけて7頭のダービー馬を輩出し、1976年にはグリーングラスが菊花賞を制すなど一大馬産地として栄えたが、現在JRAの現役頭数は23頭しかいない。ジャパン・スタッドブック・インターナショナルの発表によると、2024年の都道府県別の生産頭数(速報値)は北海道が7665頭、青森が74頭。年々減少傾向にあり、厳しい状況に置かれているのが現状だ。 「今はどうしても北海道に押されているので。ハヤテノフクノスケの活躍を通して、青森が馬産地として再び盛り上がれば。それが一番の願いです」。村上さんのその言葉には、力がこもっていた。グリーングラス以来、48年ぶりの菊制覇とはならなかったが、フクノスケが大舞台で見せた力走は、私を含め、多くの人の胸を打った。まだ3歳馬。これからも“青森の星”の挑戦を応援していきたい。(中央競馬担当・山本 理貴)
報知新聞社