中村壱太郎&尾上右近 『京鹿子娘道成寺』 「こってり」と「さっぱり」、それぞれの白拍子花子を。【今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より】
「毬唄」から「花笠踊り」へ。一気に軽やかに。
── 次は毬唄になり詞章も「廓尽くし」になって雰囲気が賑やかになりますね。客席もまた一段とテンションが上がります。 右近 あそこで一気に気持ちが軽くなります。衣裳が軽くなりますからね(笑)。自主公演で一度踊らせていただいたとき、「かぶせ」(瞬時に衣裳を替えるため衣裳の上に別の衣裳をかぶせて重ねておくこと)がこんなに重いのかと。『男女道成寺』(2021年12月歌舞伎座公演)で僕は引き抜きがない桜子で(中村)勘九郎さんが引き抜きのある花子だったのですが、勘九郎さんが自分とは比較にならないほど大きくなっていて、隣に並ぶと階級の違うボクサー同士みたいでした。 壱太郎 かぶせている人といない人が並ぶとその差はすごいよね。僕が(『男女道成寺』を)踊った時(2022年9月大阪松竹座公演)はめちゃくちゃ薄く着たよ。布団(着崩れないよう補正するもの)もしなかった。 右近 江戸時代に女歌舞伎から野郎歌舞伎になって、いろいろ苦労や工夫をしながら男だけで芝居するようになったわけだけど、逆にこれだけの重い衣裳で踊るのは男性じゃないと大変かもしれない。1日だけならまだしも、ひと月これで踊るわけだから。 壱太郎 その重い衣裳を脱いで軽くなるので、意識しなくても自然に踊り分けられるということも言えるよね。 ── 侍や傾城などいろいろな風俗が踊りで見られるのも楽しいです。 右近 あそこは踊りやすいだけに逆に丁寧に、と思っています。 壱太郎 詞章にあるように淡々とそのまま踊ればいいところでもありますね。 ── 架空の毬をつきながら、ずーっとしゃがんだまま舞台を大きく回るところは、客席から必ず手(拍手)がきますね。 右近 僕はあそこにくると「うわ、ここから後はずっと踊らなきゃいけないんだ」と改めて実感する(笑)。 壱太郎 僕は逆。あそこはもう皆さん必ずウキウキしてくれているから、ちょっと一息入れてる感じ。 右近 そうなんだ! 壱太郎 一生懸命やればやるほど手がくるから、楽しんで毬を作っていようかなって思う。クドキまではそんな感じだよ。 ── そして「梅とさんさん桜は」で花笠踊りになります。あの三段の朱い振り出し笠が枝垂れ梅や枝垂れ桜の蕾のようで。 壱太郎 あ、それ綺麗! そのイメージにしよう(笑)。 右近 あの振り出し笠はそれほど重くないので意外に楽なんですよ。 壱太郎 小道具があると楽だよね。小道具が助けてくれる。皆さん大体そこを見ているので。 右近 実はあの笠も使い方がいろいろあって、踊る人によって少しずつ違うんだよね。 壱太郎 上手な人は本当に上手だよね。僕は不器用で。 右近 壱さんが不器用って思ったことないけどな。でも確かにそれがまた魅力に感じることもありますよね。「ああ、この人も生きているんだな」「この人、意外に不器用なんだな、でもすごい努力しているんだな」って。 ── せっかくこんなに華やかな花笠なのに踊っている時間がとても短くないですか。 右近 そう、短い! 壱太郎 でも「あれ、もう終わっちゃった」くらいがいいのかもね。