中村壱太郎&尾上右近 『京鹿子娘道成寺』 「こってり」と「さっぱり」、それぞれの白拍子花子を。【今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より】
毎月歌舞伎座公演で上演される演目のなかから、気になる場面やせりふ、キャラクター、衣装などをピックアップ。客席からは知る事のできないあれこれを、実際に演じる役者に直撃質問! これを読めばきっと生の舞台を体感したくなるはず。 さぁ、めくるめく歌舞伎の世界へようこそ。(「ぴあ」アプリ&WEB「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より転載) 【全ての写真】中村壱太郎さん&尾上右近さん舞台写真ほか 美しい娘の姿をした白拍子の花子が、「乱拍子」「毬唄」「花笠踊り」「クドキ」「鞨鼓(かっこ)」「鈴太鼓」と、いくつものパートに分かれた踊りを、トライアスロンのようにたったひとりで踊り抜く。次々に衣裳を替え小道具を持ち替えながら、千々に乱れる恋心を時に初々しく時に切なく……。ご存知、歌舞伎舞踊の大曲『京鹿子娘道成寺』だ。 <あらすじ> 春爛漫、鐘供養のために所化が集まる道成寺。そこへ白拍子の花子が現れ、鐘を拝みたいという。所化たちは舞を奉納するならと入山を許し、花子は踊りを披露する。ところが次第に形相が変わってきて……。 今月の歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」の夜の部で、中村壱太郎さん(1/2~14)と尾上右近さん(1/15~27)がこの白拍子花子をWキャストで勤める。おふたりとも自主公演や道成寺ものの他の舞踊作品では花子を勤めたことがあるが、歌舞伎座の本興行で『京鹿子娘道成寺』の花子を踊るのは初めてだ。 今回は「深ボリ」連載初の対談スタイルで、まさに稽古まっ最中のおふたりが登場。上方歌舞伎の女方としてこってり感を意識したい壱太郎さんと、さっぱりスッキリと江戸前の道成寺をという右近さん。それぞれ花子をどんなふうに捉え、どう踊ろうとしているのか。たっぷり語っていただいた。
Q. 次々に変わる衣裳。注目ポイントは?
── 『京鹿子娘道成寺』といえば、次々に衣裳や小道具が変わっていくことがとても印象的な舞踊ですが、六代目菊五郎の言葉にも「衣裳が変わるように踊り分けろ」というものがあるそうです。衣裳が変わると性根も変わっていくものですか。 右近 ファッションショーのように衣裳と曲が合っているなと感じます。服のテイストによって、エレガントなBGMがいいのか、ロックがいいのか、そういう感覚に近いですね。ただ何度も衣裳が変わるので、意識がそこにばかり行ってしまうと音楽に集中しにくかったりもして...…。なので、どれだけ踊りを手の内に入れておけるかが大事だと思います。 壱太郎 とにかく踊りの中のきまりひとつ、形ひとつ、踊りの変わり目を大事に、1時間弱の長い踊りですから、まずはお客様を飽きさせないことが大事かなとも思っています。そして視覚聴覚だけでなく、「この人の踊りからはこういう香りがするね」となれると最高だなと思いますね。 ── 今回は花子が登場するのは道行からではなく、「花のほかには松ばかり」で紅白の断幕が上がるところからですね。 右近 ここはお能仕立てになっていて『娘道成寺』の中で最も重厚な所だと思うんですよ。地方(じかた・伴奏を演奏する人々)さんとの関わりも大事なところです。たっぷり慎重にやりすぎるとお客さんはここで飽きちゃったりする。でもポンポンと軽くいくのも違う。落ち着き過ぎず焦らず。緊張感とテンポ、兼ね合いが難しいです。 壱太郎 僕はここは鐘との関わりを気にしますね。鐘への意識を100でいくのか、50なのか、30なのかを提示するところ。目線ひとつでこの空間をどう使うかが決まってしまうのが難しい。あとはケンケン(右近さんの愛称)と同じですね。 右近 あの金の烏帽子が「常にまっすぐ頭の上に乗っているように踊れ」とも言われます。逆にあの格好では余計な動きが出来ない。よく出来ていますよね。 ── 烏帽子を外し紅白の花櫛を挿し、「言わず語らぬわが心」という歌詞で手踊りになると、花子の雰囲気が一段と娘らしく柔らかくなります。 右近 あの手踊りのところって振りも2,3手しかなくて、おそらく僅か1分かそこらなんですよ。なのに赤(の振袖)で踊っている印象が強く感じられると思うんです。 壱太郎 もうこの手踊りのところで、気持ちとしては浅葱(色)に変わりつつあるんだよね。伏線だよね、「さあここからはどんどん振りも気分も変わりますよ、Bブロックにいきますよ」という。僕が踊りを作る側なら、ここで曲調を変えて振りも変えなきゃって思うもんね。 ── そして引き抜いて重厚な赤から爽やかな浅葱に衣裳が変わります。 右近 あの引き抜きもやり方がいろいろあるんだよね。 壱太郎 どう見せたいか、だよね。 右近 パッと変わりたいのか、ブワ~ッと変わりたいのか。 壱太郎 役者の家それぞれで抜き方が違うので、そこも楽しんでいただけるんじゃないかな。引き抜きを目立たせない美学もあれば、「引き抜いてますよ!」という見せる美学もある。とにかく後見さんの技術にかかっているので信頼関係が大事なんです。 ── たしかに「あっという間に変わっていた!」と思ったり、「うわ~引き抜いてる!」と思ったり。 壱太郎 そう、どっちでいくのか。それはいつも思いますね。後見さんがそういくなら、こっちもこういこうという阿吽の呼吸で。